FOLLOW NDU NIIGATA

大学紹介

歯科保存学第2講座 外部研究費

成果1

炭酸ガスレーザーを併用した直接歯髄覆罩効果に関する臨床病理学的研究

鈴木雅也,平 賢久,加藤千景,新海航一,加藤喜郎

【研究目的】

直接歯髄覆罩処置において、露髄創面からの出血・組織滲出液のコントロール、汚染・感染物質の除去は、処置の成否に大きく影響すると考えられる。炭酸ガスレーザーの止血、殺菌、痂皮の形成、組織活性化の効果を露髄創面に応用することで直接覆罩の成功率が上昇するとの報告もあるが、ヒトの歯を用いた研究が少なく治癒に関する詳細は多くない。本研究は、炭酸ガスレーザー処理された創傷治癒の性状を明らかにし、有効な照射設定、照射方法を検索することを目的とした。本学会では主に観察期間14~104日までの短期症例について報告する。

【材料および方法】

本研究は、日本歯科大学新潟生命歯学部倫理審査委員会の承認を得てから行った。被験歯は何らかの原因(矯正に伴う必要抜歯、抜歯を希望する智歯)にて有髄歯の抜歯を必要とし、研究目的と内容を理解し同意書に署名を得た患者の歯を用いた(9名21歯)。局所浸潤麻酔を施し、直径約1.5~2.0mmを目標に露髄面を形成した。直ちに交互洗浄(6%NaClO⇔3%H2O2)を行い、創面にAD Gel®(10%NaClO Gel:クラレメディカル)を塗布した。5分間経過後AD Gelを交互洗浄で除去、滅菌生理食塩水で洗浄して止血を確認した。その後、炭酸ガスレーザー(Opelaser PRO:ヨシダ)を用いて露髄面を炭化した。照射条件は、0.5W/スーパーパルス1/リピート照射(10msec照射⇔10msec休止)とした。照射時間2~3秒を1クールとし、露髄面が完全に炭化層で覆われるまで繰り返し照射した。すべての症例で、約10クール前後(約20~30秒)で達成した。覆罩・修復方法は、11歯が接着性レジンシステムClearfil® Mega bond(MB:クラレメディカル)のみ、10歯が水酸化カルシウム製剤Dycal®(DY:デンツプライ三金)で覆罩後にMB処理とした。修復にはUniFil® LoFlo Plus(GC)とClearfil® AP-X(クラレ)で積層充填を行い、経過観察を行った(最短14日、最長348日以上)。抜去歯は4%PFA溶液により固定、10%EDTA容液による脱灰後、パラフィン包埋を行い、薄切連続切片を作製、HE染色、グラム染色、NF銀染色、免疫組織化学染色(DMP1)を行い観察した。

結果ならびに考察】

被験歯21歯のうち、18歯はまったく無症状であった。3歯で術直後に消炎鎮痛剤を服用したが、違和感程度であり1~2日で消退した。観察期間中に不快症状の発現や経過不良となる症例は無く、抜歯直前に歯髄電気診査で生活歯であることを確認した(H20年2月現在で19歯を抜歯)。病理組織学的には、術後30日前後において露髄部付近の血管拡張、充血が強く存在し、象牙芽細胞と象牙前質の消失が観察された。炭化組織は露髄表層に留まらず一部断片的に歯髄組織内に及んでいた。30日以上経過すると炎症性変化は減少傾向にあり、51日(DY有り)では充血は残存しているものの新生象牙質と髄腔内壁に刺激象牙質の形成を観察し、104日(DY有り)では完全象牙質橋を認めた。深部組織は安静な状態であったが、表層付近の歯髄組織内に炭化組織が残存していた。47日(DY無し)でも再表層に石灰化基質の形成を認めた。炭酸ガスレーザーを直接覆罩処置へ応用することで、術中は炭化・熱変性組織による痂皮の形成により組織液の滲出や再出血は無くなり、その後の覆罩・修復処置はゆとりを持って行うことができた。また、動物実験(ラット)での観察1)と同様に、初期の強い炎症性反応は時間の経過とともに消退すると予想される。今後、長期経過観察症例を追加し、組織内に残存する炭化組織の動向も含め炭酸ガスレーザー処理の有効性について検討を重ねる予定である。

成果2

炭酸ガスレーザー照射ヒト露髄創面の治癒態度と臨床経過

鈴木雅也,平 賢久,加藤千景,新海航一,加藤喜郎

【研究目的】

直接覆罩処置において、炭酸ガスレーザー照射を露髄創面に応用することで、優れた止血効果、殺菌、痂皮の形成ならびに組織活性化作用等が得られ成功率が上昇するとの報告もあるが、ヒトの歯を用いた研究が少なく治癒形態に関する詳細は多くない。本研究は、炭酸ガスレーザー処理された歯髄創傷治癒の過程を明らかにし、有効な照射条件・方法を検索することを目的として行った。

材料および方法

本研究は、日本歯科大学新潟生命歯学部倫理審査委員会の承認を得てから行った。被験歯は何らかの原因にて有髄歯の抜歯を必要とし(矯正に伴う必要抜歯、抜歯を希望する智歯)、研究目的と内容を理解し同意書に署名を得た患者の歯を用いた(9名21歯)。直径1.5~2.0mmを目標に露髄面を形成し、直ちに交互洗浄(6%NaClO⇔3%H2O2)を行った。AD Gel®(10%NaClO Gel:クラレメディカル)を創面に5分間塗布後、再度交互洗浄でAD Gelを除去、滅菌生理食塩水で洗浄した。止血の確認後、炭酸ガスレーザー(Opelaser PRO:ヨシダ)を0.5W/スーパーパルス1/リピート照射(10msec照射⇔10msec休止)に設定し、照射時間2~3秒を1クールとして照射を開始した。露髄面を完全に炭化層で覆うために約10クール前後(約20~30秒)の照射を要した。覆罩・修復方法は、11歯が接着性レジンシステムClearfil® Mega bond(MB:クラレメディカル)のみ(MB群)、10歯が水酸化カルシウム製剤Dycal®(DY:デンツプライ三金)で覆罩後にMB処理とした(DY群)。その後、UniFil® LoFlo Plus(GC)とClearfil® AP-X(クラレメディカル)を用いた積層充塡を行い修復の完了とした。経過観察後(最短14日、最長401日)、抜去歯は4%PFA溶液により固定、10%EDTA容液による脱灰後、パラフィン包埋を行った。5µmの薄切連続切片を作製し、H-E染色、グラム染色、鍍銀染色、免疫組織化学染色(DMP1、HSP47、DSP、collagen typeⅠ)を施し観察した。

結果ならびに考察】

観察期間中はすべての被験歯で不快症状の発現は無く、抜歯直前に歯髄電気診査で生活反応を示した。病理組織学的には、術後30日前後において露髄部付近の象牙芽細胞と象牙前質の消失、血管拡張、充血等の炎症性変化が強く存在した。レーザー照射による炭化組織は表層だけに留まらず、一部断片的に歯髄組織内にも及んでいた。50日程度経過すると炎症性変化は減少傾向を示し、髄腔内壁には刺激象牙質が形成され、露髄部表層では石灰化の基質形成を認めた。100日後でも試料によっては表層付近の歯髄組織内に炭化組織が残存していたが、深部組織は安静な状態にあり、露髄部は完全象牙質橋による閉鎖を観察した。300日以上になると、両群で歯髄側に細管構造を持つ厚い完全象牙質橋を観察したが、骨様象牙質の占める割合はDY群の方が大きかった。各群それぞれ1例ずつ歯冠部歯髄の壊死(MB群:327日、DY群:388日)を認めた。露髄部の治癒形態は個々の試料によって様々であったが、全般的に露髄部の硬組織形成は炭化組織の存在により遅れる傾向が見られた。これに対して露髄部周囲の髄腔内壁に生じる刺激象牙質の形成は速く、表層部の歯髄組織は周囲から形成される刺激象牙質によって囲まれる傾向にあった。collagen typeⅠの陽性反応は、第三象牙質(刺激象牙質および新生象牙質橋)の歯髄側の象牙質で強く、DMP1とDSPは象牙細管内の一部にのみ陽性反応を認めた。また、第三象牙質の直下に配列した象牙芽細胞様細胞でHSP47、DMP1およびDSPの陽性反応が観察された。特にHSP47は観察期間27日以降から401日まで明瞭であった。
直接覆罩処置における炭酸ガスレーザー照射の併用は、露髄部の組織液の滲出や再出血を短時間で防止することが可能であった。また、露髄部表層に炭化・熱変性組織が存在しても、水酸化カルシウム製剤の有無にかかわらず最終的に完全象牙質橋の形成に至ることが判明した。しかしながら、治癒形態は一様ではなく、試料によっては複雑な形態を呈していることから照射条件・方法に関してさらなる検討が必要であると思われた。

成果3

リン酸カルシウム塩配合試作接着性レジンシステムによる直接歯髄覆罩創面の治癒態度の詳細

鈴木雅也,荻須崇仁,加藤千景,新海航一,山内淳一,加藤喜郎

【研究目的】

我々は,これまでラット露髄面に対する各種リン酸カルシウム塩配合試作接着性レジンシステムによる直接歯髄覆罩処置の有効性について報告してきた。本研究では,試作ボンディング材の基礎的な研究も加え,覆罩創面の治癒形態の詳細について代表例を挙げて報告する。

材料および方法

試作接着性レジンシステムはClearfil Mega bond®(MB:クラレ)を基本組成としている。試作モノマー液に各種リン酸カルシウム塩を所定の割合で配合し,試作ボンディング材を製作した。

材料
Materials

Abbr.
化学構造式
Chemical Structures
製造番号
Lot #
製造
Manufacturers
備考
Remarks
ヒドロキシアパタイト
Hydroxl-calcium phosphate
HAP Ca10(PO4)6(OH)2 030606 宇部マテリアルズ
Ube Materials
試作品(1200℃焼成)
Experimental Product
ブルッシャイト
Dicalcium phosphate dehydrate
DCPD CaHPO4•2H2O M7H6575 ナカライテスク
Nacalai Tesque
試作品(1200℃焼成)
Experimental Product
ウイトロカイト
Beta-tricalcium phosphate
βTCP Ca3(PO4)2 04080401 太平化学産業
Taihei Chemical
試作品
Experimental Product
オクタリン酸カルシウム
Octacalcium phosphate
OCT Ca8H2(PO4)6•5H2O SA3131 太平化学産業
Taihei Chemical
試作品
Experimental Product

動物実験は,8~9週齢の雄性SD系ラットの上顎第一・第二臼歯を用いた。近心咬頭頂部を露髄,創面をAD Gel®(クラレ)にて5分間処理後,6%NaClOと3%H2O2により洗浄・止血を行い,試作ボンディング材で覆罩を行った。対照群は,Dycal®(DY:デンツプライ三金)による覆罩後MB処理を行った群,およびMBのみで覆罩を行った群とした。窩洞はClearfil AP-X®(クラレ)で修復,所定の観察期間の後,4%PFA溶液による経心的灌流固定を行い屠殺した。摘出試料は10%EDTA溶液にて脱灰,通法にてパラフィン包埋し,連続切片標本を作製,H-E染色,Hucker-Conn組織細菌染色,NF銀染色,免疫染色(sABC法:TGF-β1,DMP1)を行い観察した。また,リン酸カルシウム塩粉末および硬化試作ボンディング材のSEM,EPMAならびに元素(Ca,P,Mg)の溶出性の観察を行った。

結果ならびに考察】

術後14日では,MB覆罩群で修復性象牙質の形成がほとんどないのに対し,試作ボンディング材を使用した全ての群でその形成を認め,硬組織誘導能がより速やかであることを確認した。DY覆罩群では、完全象牙質橋からほとんど形成されないものまであり,試料間でばらつきが大きくみられた。また,壊死層形成後の瘢痕治癒により,歯髄容積は著しく減少した。炎症性変化は全ての群で経時的に消退する傾向にあり,術後28日ではMB覆罩群においても完全象牙質橋の形成を認めた。試作ボンディング材間の比較では,HAP添加群,βTCP添加群で炎症性変化が少なく細管構造を有する修復性象牙質を観察した。DCPD添加群では硬組織誘導能は高いものの形態が不規則な象牙質を形成し,OCT添加群では他と比較して硬組織形成量は少なかった。直接歯髄覆罩剤として用いた硬化ボンディング材中のリン酸カルシウム塩は,露髄面と直接接触もしくは近接した位置関係にあり,直接接触することによる石灰化作用,硬化ボンディング材中より水分を介して溶出する元素のイオン作用,pH変化による覆罩界面の環境変化等の因子により修復性象牙質形成促進効果を発揮したものと思われた。

成果4

象牙質マトリックスタンパク1(DMP1)由来合成ペプチド(pA, pB)によるラット露髄面の直接覆罩効果

加藤喜郎、鈴木雅也、荻須崇仁、加藤千景、新海航一、山内淳一、朝倉哲郎

【研究目的】

象牙質マトリックスタンパク質(DMP1)由来合成ペプチド(pA, pB)はCa2+と結合することによりHydroxyapatite結晶の形成が開始されることが知られており、骨や歯の硬組織再生への利用が期待されている。そこで本研究では、in vivoでラットの露髄面に対する象牙質形成促進効果を確認するため、接着性レジンシステムを担体として合成ペプチド(pA, pB)およびリン酸カルシウム塩を添加したもので直接歯髄覆罩した場合の、創傷の治癒形態について病理組織学的ならびに免疫組織化学的に検討を行った。

【材料および方法】

8~9週齢の雄性SD系ラットの上顎第一臼歯近心咬頭頂部を露髄し、創面をAD Gel®(クラレ)にて5分間処理、6%NaClOと3%H2O2による交互洗浄を行った後、直接歯髄覆罩を行った。覆罩に用いた試作接着性レジンシステムはClearfil® MegaBond®(MB:クラレ)を基本組成としている。試作プライマーは、MBプライマー(MBP)1滴(30mg)にCaCl2(3.0mg)、ならびに合成ペプチド(pA : 1.2mg, pB : 1.8mg)を配合した2種類、試作ボンディング材は、MBボンド(MBB)に10wt%Hydroxyapatite粉末を配合したもの(MB2)を用いた。これらは使用直前に撹拌・混和を行った。対照群として無配合のMBを用いたもの(CONT1)、およびDycal®(デンツプライ三金)で覆罩後MB処理(CONT2)の2群とした。窩洞はClearfil® AP-X®(クラレ)で修復、光照射はCandelux®(モリタ)で行った。実験群と処理手順のまとめを表に示す。14日後に屠殺、4%PFA溶液で固定した。摘出試料は10%EDTA溶液にて脱灰、通法にてパラフィン連続切片標本を作製し、H-E染色、Hucker-Conn組織細菌染色、NF銀染色、免疫染色(sABC法:TGF-β1, DMP1)を行い観察した。

処理手順 プライマーI プライマーII ポンド 修復  
Group1 MBP+CaCl2 20秒処理→エアー乾燥 MBP+pA,pB 20秒処理→エアー乾燥→光照射10秒 MB2 光照射10秒 AP−X(A3) 光照射40秒
Group2 MBP+CaCl2 20秒処理→エアー乾燥 MBP 20秒処理→エアー乾燥→光照射10秒 MB2 光照射10秒 AP−X(A3) 光照射40秒
Group3 MBP 20秒処理→エアー乾燥 MBP+pA,pB 20秒処理→エアー乾燥→光照射10秒 MB2 光照射10秒 AP−X(A3) 光照射40秒
Group4 MBP+CaCl2 20秒処理→エアー乾燥 MBP+pA,pB 20秒処理→エアー乾燥→光照射10秒 MB2 光照射10秒 AP−X(A3) 光照射40秒
Group5 MBP 20秒処理→エアー乾燥 MBP 20秒処理→エアー乾燥→光照射10秒 MB2 光照射10秒 AP−X(A3) 光照射40秒
  Ca(OH)2 プライマー ボンド 修復
CONT2 Dycal 露髄部に塗布 MBP 20秒処理→エアー乾燥 MBB 光照射10秒 AP-X (A3) 光照射40秒

 MBP:Mega Bond Primer, MBB:Mega Boud Bonding Agent, MB2:MBBにHAP粉末10wt%配合 n=5

結果ならびに考察】

すべての実験群で修復性象牙質の形成を観察した。とくにGroup1で非常に強い硬組織誘導効果を認め、形成された象牙質は特異な三層構造を呈していた。Group2は露髄面から少し離れた歯髄組織内に明瞭な2層の修復性象牙質を形成する傾向があり、Group3ではより露髄面に近い部位に形成したが2層の形態は不明瞭であった。形成量はGroup1で最も多く、厚い修復性象牙質の層を形成した。これら三層の硬組織は、深層から中間層までがプライマーⅠ(CaCl2)の効果により誘導され、上層はプライマーⅡ(pA, pB)とボンド(Hydroxyapatite)により誘導された層であると推察された。また、三層の間には歯髄組織が介在しており、免疫染色のDMP1に強い反応を示した。DMP1染色はGroup2、Group3に比べGroup1、Group4で強い反応を認めた。以上の結果を要約すると、試作プライマーⅠにCaCl2、試作プライマーⅡにpA, pB、試作ボンディング材にHydroxyapatiteを添加したもので接着性レジンシステムを構成すると、高度かつ早期に象牙質橋を形成し創傷治癒に至ることが確認され、直接歯髄覆罩から修復までをこのシステムで行える可能性があることが示唆された。今後、長期的な実験群も加えて検討を進める予定である。

成果5

新規光重合型フッ素徐放性審美的ティースメイクアップシステムの臨床的評価

海老原隆、新海航一、加藤千景、若木 卓、関 秀明、白野 学、鈴木雅也、荻須崇仁、平 賢久、加藤喜郎

【研究目的】

生活歯の色調改善のためには、一般的に歯の漂白法が用いられている。しかしながら、歯の漂白法は長い治療期間を要することならびに色の後戻りが生じることが短所としてあげられる。また、修復的アプローチとしては、ラミネートベニア法が歯の色調改善に用いられるが、術式上エナメル質表層を一層削除しなければならない。この点はMIコンセプトから鑑みた場合に好ましい色調改善法とはいえない。
近年、歯のマニキュア法が臨床応用されつつある。この方法を用いると非切削で迅速な歯の色調改善が可能であるが、修復後の耐久性に難があり暫間的に用いられているのが現状であると思われる。松風社からビューティコートと称して新規光重合型フッ素徐放性審美的ティースメイクアップシステムが開発された。このシステムはセルフエッチング法によりエナメル質面を処理後、低粘度レジンペーストを塗布、光重合、仕上げ研磨を行って歯の色調改善を行う修復法であり、その接着性、背景色遮断性ならびに色調安定性については基礎研究において臨床応用可能なシステムであることが確認されている。そこで、今回我々は、本システムの臨床経過を観察し、臨床的な評価を行ったので報告する。

【研究方法】

本研究は、日本歯科大学新潟生命歯学部倫理委員会において承認を得てから行われた。被験者は20−29歳の21名(男性8名、女性13名)で、上顎前歯を対象とした。
実験材料は、ビューティコート(SI-R20209、松風);プライマー(A液、B液)、ホワイトベース(BW3)、グロスエフェクト、グロスポリッシャーを用いた。
実験方法は、術前にプレサージュ(松風)を用いて歯面清掃を行った後、上顎前歯の左右側のどちらかをグロスエフェクト群(レジン硬化促進剤を塗布し、仕上げ研磨を実施しない)、もう一方をグロスポリッシャー群(新規研磨器具により仕上げ研磨を実施する)とした。つまり、グロスエフェクト群は、プライマー(A液、B液)を2液混合、唇側エナメル質歯面に塗布し、3秒間放置後中圧にてエアブローを行い、ホワイトベース(BW3)を塗布し10秒間光照射(ハロゲン照射器)後、グロスエフェクトを全体に塗布し30秒間光照射後水洗・乾燥を行った。グロスポリッシャー群は、プライマー(A液、B液)を2液混合、唇側エナメル質歯面に塗布し、3秒間放置後中圧にてエアブローを行い、ホワイトベース(BW3)を塗布し30秒間光照射(ハロゲン照射器)後、表面の未重合層をガーゼで拭き取り、グロスポリッシャーを用いて研磨を行った。また、ホワイトベースの塗布方法は第122回春季学術大会で報告した方法(ニードルチップから直接歯面に格子縞状に塗布し、付属のインスツルメントを用いて円を描くように伸ばす方法)で行った。
評価期間は、修復直後をベースラインとし、1週間後、1か月後、3か月後とした。評価方法は、口腔内での直接的修復物診査(色調変化、知覚過敏、辺縁部変色、摩耗、表面粗さ、破折・脱落)、分光光度計クリスタルアイ(オリンパス)による測色ならびにレプリカ−SEM法による修復物の微細な形態変化を観察し、データの比較検討を行った。

【結果および考察】

本研究では21症例124歯(グロスエフェクト群62歯、グロスポリッシャー群62歯)を修復し、3か月経過までを評価した結果、知覚過敏、辺縁部変色、摩耗および表面粗さに関しては良好な成績であったが、予後不良例として修復物の破折が3歯に、脱落が1歯に認められた。破折や脱落の原因としては、塗布操作のミスによる僅かな切端被覆とブラキシズムが重複したためと推測される。また、修復歯の色調変化では、修復直後はかなり白く審美的であるが、経時的に透明度が増し白さが低下する傾向がみられた。グロスエフェクト群とグロスポリッシャー群では、口腔内での直接的修復物診査で表面粗さにほとんど差が認められなかったものの、グロスエフェクト群の方が修復直後における表面の光沢性が優れていた。今後は12か月経過まで、長期的な臨床評価を行う予定である。

成果6

試作リン酸カルシウム塩配合接着システムの象牙質接着強さに関する検討

平 賢久,新海航一, 鈴木雅也, 加藤千景, 海老原 隆, 若木 卓, 関 秀明, 白野 学, 荻須崇仁, 加藤喜郎

【研究目的】

当講座の加藤らはこれまでにリン酸カルシウム塩を配合した高分子系直接歯髄覆罩剤を開発し、ラットを用いた動物実験で直接歯髄覆罩効果について検討した結果、歯髄に重篤な炎症性変化を惹起させることなくデンチンブリッジが早期に形成されることを確認している。しかしながら、このような修復性象牙質形成促進剤を添加することにより従来のボンディング剤の組成・機能が変化し、歯質接着強さを低下させることが懸念された。そこで今回我々は、種々の割合で各種リン酸カルシウム塩を配合した高分子系直接歯髄覆罩剤のヒト抜去歯・象牙質に対する微小接着強さを測定、比較検討したので報告する。

【材料と方法】

ヒト抜去歯の咬合面を削除し、平坦な象牙質面(各群につき5歯)を形成した(耐水研磨紙♯120→♯600)。次に露髄面の止血処理に準じて象牙質面をAD-GelⓇ(10%NaClO:クラレメディカル)で1分間処理後、PureloxⓇ(6%NaClO:オーヤラックス)とOxydolⓇ(3%H2O2:三共)で交互洗浄、ワッサーフリーⓇ(滅菌生理食塩水:扶桑薬品)による最終洗浄後、乾燥させた。クリアフィル・メガボンドⓇ(クラレメディカル)のプライマー(MBP)を塗布して20秒間放置後、5秒間強圧エアブローを行った。次に、表1に示す割合で各種リン酸カルシウム塩を配合したボンディング剤6種類(高分子系直接歯髄覆罩剤MB1、MB2、MB3、MB5、MB7、MB9)を各々塗布して軽圧エアブローで薄くのばしてから10秒間光照射(CandeluxⓇ:モリタ)した。なお、コントロール(Cont)としてクリアフィル・メガボンドⓇのボンド(MBB)を用いた。象牙質面に透明アクリルチューブ(内径6mm、高さ3mm)を固定し、接着処理面に約1mmの厚さでクリアフィル・フローFXⓇ(A3)を塗布し20秒間光照射、次にクリアフィルAP-XⓇ(A3)を約2mm積層充填して40秒間光照射した。恒温高湿器中に接着試料を24時間保管した後、ISOMETⓇ(BUEHLER)により象牙質接合界面断面積が、1mm2になるように角柱型ビームを作製し、微小引張り試験用治具(Bencor-multi-T試験器:Danville Engineering)に取り付けて小型卓上試験機EZTest 500N(島津)を用いてクロスヘッドスピード0.5mm/minで微小引張り接着試験を行った(n=20)。

【結果および考察】

接着試験の測定結果を表2に示す。リン酸カルシウム塩を配合した高分子系直接歯髄覆髄剤の象牙質接着強さはコントロールと比較して若干低い測定結果を示したが、Bonferroni検定による統計学的解析では有意差は認められなかった(P>0.05)。したがって、ボンディング剤へのリン酸カルシウム塩の配合は象牙質接着強さを低下させないことが確認された。また、露髄面の止血処理に準じたAD-GelⓇ象牙質前処理は、クリアフィル・メガボンドの象牙質接着強さを向上させる効果があることが判明した。

表1 実験群とリン酸カルシウム塩の配合比

成分 高分子系直接歯髄覆罩剤の組成(wt%)
MB1 MB2 MB3 MB5 MB7 MB9
試作モノマー液 100 100 100 100 100 100
ヒドロキシアパタイト 5 10 - - - 5
ブルッシャイト - - 5 - - -
ウイトロカイト - - - 5 - 5
オクタリン酸カルシウム - - - - 5 -
Cont: (MBP+MBB)            

表2 微小引張り接着強さ(MPa)

実験群 接着強さ*
MB1 47.2±10.7
MB2 49.2±7.7
MB3 45.1±5.6
MB5 46.4±9.5
MB7 47.6±6.4
MB9 48.7±8.7
Cont 52.7±8.7

* Mean±SD (n=20)

成果7

塩化カルシウム,象牙質マトリックスタンパク質(DMP1)由来合成ペプチド(pA,pB)ならびにハイドロキシアパタイト配合接着性レジンシステムの象牙質接着強さに関する検討

平 賢久,新海航一, 鈴木雅也, 加藤千景, 加藤喜郎

【研究目的】

当講座の加藤らはこれまでに象牙質マトリックスタンパク質(DMP1)由来合成ペプチド(pA,pB)を配合した高分子系直接歯髄覆罩剤を開発し、ラットを用いた動物実験で直接歯髄覆罩効果について検討した結果、歯髄に重篤な炎症性変化を惹起させることなくデンチンブリッジが早期に形成されることを確認している。
しかしながら、このような高分子系直接歯髄覆罩剤を添加することにより従来のボンディング剤の組成・機能が変化し、歯質接着強さを低下させることが懸念された。そこで今回我々は、DMP1由来合成ペプチド(pA,pB)配合接着システムによるヒト抜去歯・象牙質に対する微小接着強さを測定、比較検討したので報告する。

【材料と方法】

ヒト抜去歯の咬合面を削除し、平坦な象牙質面(各群につき5歯)を形成した(耐水研磨紙♯120→♯600)。次に露髄面の止血処理に準じて象牙質面をAD-GelⓇ(10%NaClO:クラレメディカル)で1分間処理後、PureloxⓇ(6%NaClO:オーヤラックス)とOxydolⓇ(3%H2O2:三共)で交互洗浄、フィシザルツⓇ(滅菌生理食塩水:扶桑薬品)による最終洗浄後、乾燥させた。次に、表1に示すpA,pB配合接着システムを用いて接着処理を行った。まずプライマーⅠ・プライマーⅡを各々塗布して20秒間放置後、5秒間強圧エアブローを行い、10秒間光照射(CandeluxⓇ:モリタ)した。その後、ボンドMB2(10 wt%ハイドロキシアパタイト配合)を塗布して軽圧エアブローで薄くのばしてから10秒間光照射した。なお、コントロール(Cont)としてクリアフィル・メガボンドⓇ(MBP・MBB)を用いた。象牙質面に透明アクリルチューブ(内径6mm、高さ3mm)を固定し、接着処理面に約1mmの厚さでクリアフィル・マジェスティⓇLV (A3)を塗布し20秒間光照射、次にクリアフィルAP-XⓇ(A3)を約2mm積層充填して40秒間光照射した。恒温高湿器中に接着試料を24時間保管した後、ISOMETⓇ(BUEHLER)により象牙質接合界面断面積が、1mm2になるように角柱型ビームを作製し、微小引張り試験用治具(Bencor-multi-T試験器:Danville Engineering)に取り付けて小型卓上試験機EZTest 500N(島津)を用いてクロスヘッドスピード0.5mm/minで微小引張り接着試験を行った(n=20)。ANOVAとBonferroni検定による統計学的解析を行い実験群間の有意差を検定した。(p<0.05)。

【結果および考察】

微小引張り接着試験の測定結果を表2に示す。塩化カルシウムあるいはpA,pBをプライマーに配合した直接歯髄覆罩剤(実験群①、②、③)の象牙質接着強さは実験群④およびコントロールと比較して有意に低い測定値を示した。したがって、プライマーへの塩化カルシウムあるいはpA,pBの配合は象牙質接着強さを低下させることが確認された。

表1 DMP1由来合成ペプチド(pA,pB)配合接着システム

  プライマーI プライマーII ボンド
実験群(1) 塩化カルシウムプライマー DMP1プライマー MB2(10 wt%ハイドロキシアパタイト)
実験群(2) 塩化カルシウムプライマー MBP MB2(10 wt%ハイドロキシアパタイト)
実験群(3) MBP DMP1プライマー MB2(10 wt%ハイドロキシアパタイト)
実験群(4) MBP MBP MB2(10 wt%ハイドロキシアパタイト)
Cont MBP MBP MBB

表2 微小引張り接着強さ(MPa)

実験群 接着強さ(Mean±SD)
実験群(1) 15.4±5.4
実験群(2) 36.3±12.7a
実験群(3) 42.6±9.9a,b
実験群(4) 49.9±11.4b,c
実験群(5) 52.7±8.7c

同一文字は有意差なし (p>0.05)

成果8

塩化カルシウム,象牙質マトリックスタンパク質(DMP1)由来合成ペプチド(pA, pB)ならびに
ヒドロキシアパタイト配合接着性レジンシステムによるラット露髄面の直接覆罩効果 -添加物の配合量と創傷部治癒態度について-

平 賢久,新海航一, 鈴木雅也, 加藤千景, 加藤喜郎

【研究目的】

当講座の加藤らは、象牙質マトリックスタンパク質(DMP1)由来合成ペプチドpA, pBの象牙質形成促進効果を確認するため、CaCl2(10wt%)およびpA, pB(10wt%)配合プライマー、ヒドロキシアパタイト(10wt%)配合ボンディング材からなる試作接着性レジンシステムを用いてラット露髄面に直接歯髄覆罩すると、特異な三層構造を呈した修復性象牙質を形成して創傷治癒に至ることを観察した1)。しかしながら、接着システムの製品化に際しさらなるコストの削減が求められる。そこで本研究では、CaCl2およびpA, pBの配合量を変え直接歯髄覆罩した場合の歯髄創傷治癒態度について病理組織学的ならびに免疫組織化学的に検討を行った。

【材料と方法】

8~9週齢の雄性SD系ラットの上顎第一臼歯近心咬頭頂部を露髄し、創面をAD Gel®(クラレメディカル)にて5分間処理、6%NaClOと3%H2O2による交互洗浄を行った後,直接歯髄覆罩を行った。覆罩に用いた試作接着性レジンシステムはClearfil® Mega bond®(MB:クラレメディカル)を基本組成としている。試作プライマーは、MBプライマー(MBP)にCaCl2(1、5wt%)、ならびにpA, pB(0.1、1、5wt%)を配合したものを,試作ボンディング材は,MBボンド(MBB)に10wt%Hydroxyapatite(OHAp)粉末を配合したもの(MB2)を用いた。これらは使用直前に手の内で撹拌・混和を行った。窩洞はClearfil® AP-X®(クラレメディカル)で修復、光照射はCandelux®(モリタ)で行った。観察期間14・28日後に屠殺、4%PFA溶液で固定し摘出試料は10%EDTA溶液にて脱灰,通法にてパラフィン連続切片標本を作製した。H-E染色、Hucker-Conn組織細菌染色、鍍銀染色、免疫染色(高分子ポリマー法:TGF-β1、DMP1)を行い観察し、Medina-加藤の評価基準を用い歯髄組織の変化(PTD)、炎症性細胞浸潤(ICI)、修復象牙質の形成(RDF)、細菌侵入(BP)について評価を行った。各評価項目の統計学的解析には、コントロールグループ(CONT)として10wt%の結果1)を含めKruskal-Wallis H-test(p<0.05)を行い、有意差を認めたものにはさらにpost hoc testとしてMann-Whitney U-test with Bonferroni correctionを行った。

処理手順(n=5) プライマーI(CaCl2 配合量) ボンド(OHAp10wt%配合) ボンド(OHAp10wt%配合) コンポレットレジン修復 コンポレットレジン修復
Group 1 1 wt% 20秒処理→エアー乾燥 0.1 wt% 20秒処理→エアー乾燥→光照射10秒 MB2 光照射10秒 AP-X(A3) 光照射40秒
Group 2 1 wt% 20秒処理→エアー乾燥 1 wt% 20秒処理→エアー乾燥→光照射10秒 MB2 光照射10秒 AP-X(A3) 光照射40秒
Group 3 1 wt% 20秒処理→エアー乾燥 5 wt% 20秒処理→エアー乾燥→光照射10秒 MB2 光照射10秒 AP-X(A3) 光照射40秒
Group 4 5 wt% 20秒処理→エアー乾燥 0.1 wt% 20秒処理→エアー乾燥→光照射10秒 MB2 光照射10秒 AP-X(A3) 光照射40秒
Group 5 5 wt% 20秒処理→エアー乾燥 1 wt% 20秒処理→エアー乾燥→光照射10秒 MB2 光照射10秒 AP-X(A3) 光照射40秒
Group 6 5 wt% 20秒処理→エアー乾燥 5 wt% 20秒処理→エアー乾燥→光照射10秒 MB2 光照射10秒 AP-X(A3) 光照射40秒
CONT1) 10 wt% 20秒処理→エアー乾燥 10 wt% 20秒処理→エアー乾燥→光照射10秒 MB2 光照射10秒 AP-X(A3) 光照射40秒

【結果ならびに考察】

観察期間14日では、試料間にばらつきがあるものの全てのGroupでRDF を認めた。PTD とICIが少ない試料が多く見られた。 各評価項目についてKruskal-Wallis H-test(p<0.05)を行った結果RDFとPTDに有意差を認め、Mann-Whitney U-testによるGroup間比較ではRDFのCONTと全てのGroup間で、Group 3とGroup 1, 4, 5 ,6 間に、PTDではGroup 3とGroup 2, 4, 5間に有意差を認めた。観察期間28日では、全てのGroupで高度に形成されたRDF を認めた。CONTおよび全てのGroup間の比較では統計学的に差は認められなかった(p>0.05)。PTD とICIについてはそれに該当する歯髄組織の変化は全く認められなかった。

成果9

フッ素徐放性審美的ティースメイクアップシステムの短期臨床評価

若木 卓、海老原隆、新海航一、加藤千景、関 秀明、白野 学、鈴木雅也、荻須崇仁、平 賢久、加藤喜郎

【研究目的】

近年、白い歯への願望は強くなる傾向がある。生活歯の色調改善には、専門的歯面清掃、漂白、ラミネートベニアなどが用いられる。また、歯のマニキュア法は非切削で迅速な歯の色調改善が可能であることから最近注目されている。松風社からビューティコートと称して新規光重合型フッ素徐放性審美的ティースメイクアップシステムが開発された。その接着性、背景色遮断性ならびに色調安定性については基礎研究において臨床応用可能なシステムであることが確認されている。そこで、今回我々は、本システムの臨床経過を観察し、臨床的な評価を行ったので報告する。

【研究方法】

本研究は、日本歯科大学新潟生命歯学部倫理委員会において承認を得てから行われた。被験者は20−29歳の20名(男性8名、女性12名)で、上顎前歯を対象とした。
実験材料は、ビューティコート(松風);プライマー(A液、B液)、ホワイトベース(BW3)、グロスエフェクト、グロスポリッシャーを用いた。
実験方法は、術前にプレサージュ(松風)を用いて歯面清掃を行った後、上顎前歯の左右側のどちらかをグロスエフェクト群(レジン硬化促進剤を塗布し、仕上げ研磨を実施しない)、もう一方をグロスポリッシャー群(新規研磨器具により仕上げ研磨を実施する)とした。つまり、グロスエフェクト群は、プライマー(A液、B液)を2液混合、唇側エナメル質歯面に塗布し、3秒間放置後中圧にてエアブローを行い、ホワイトベース(BW3)を塗布し10秒間光照射(ハロゲン照射器)後、グロスエフェクトを全体に塗布し30秒間光照射後水洗・乾燥を行った。グロスポリッシャー群は、プライマー(A液、B液)を2液混合、唇側エナメル質歯面に塗布し、3秒間放置後中圧にてエアブローを行い、ホワイトベース(BW3)を塗布し30秒間光照射(ハロゲン照射器)後、表面の未重合層をガーゼで拭き取り、グロスポリッシャーを用いて研磨を行った。また、ホワイトベースの塗布方法は第122回春季学術大会で報告した方法(ニードルチップから直接歯面に格子縞状に塗布し、付属のインスツルメントを用いて円を描くように伸ばす方法)で行った。
評価期間は、修復直後をベースラインとし、1週間後、1か月後、3か月後とした。評価方法は、口腔内での直接的修復物診査(色調変化、知覚過敏、辺縁部変色、摩耗、表面粗さ、破折・脱落)、分光光度計クリスタルアイ(オリンパス)による測色ならびにレプリカ−SEM法による修復物の微細な形態変化を観察し、データの比較検討を行った。

【結果および考察】

本研究では20症例118歯(グロスエフェクト群59歯、グロスポリッシャー群59歯)を修復し、3か月経過までを評価した結果、口腔内直接的修復物診査により、グロスエフェクト群とグロスポリッシャー群を比較すると、色調変化、知覚過敏、辺縁部変色、摩耗および破折・脱落において、有意差はみられなかったが(p>0.01)、表面粗さの術直後にのみ有意差がみられた(p<0.01)。ビューティコートは、非切削で迅速な歯の色調改善方法として臨床において有効的に利用できると思われる。しかし、維持するためには、1週間後から1か月間の間の早期に破折の確認や再研磨などのメインテナンスは必要不可欠であることが示唆された。

成果10

フッ化物濃度が歯根面の耐酸性に及ぼす影響

新海航一、平 賢久、鈴木雅也、加藤千景、加藤喜郎

【研究目的】

露出歯根面の臨界pHは乳歯と同程度に高いといわれ、高齢者において根面齲蝕の罹患率が高い一因と考えられる。フッ化物塗布やレーザー照射はエナメル質の脱灰を抑制することが報告されているが、それらのセメント質あるいは象牙質に対する脱灰抑制効果の詳細はほとんど知られていない。フッ化物塗布、炭酸ガスレーザー照射あるいは両者の併用はエナメル質と同様に根面象牙質に対しても耐酸性を向上させるものと予想される。今回はまずフッ化物濃度が歯根面の耐酸性に及ぼす影響についてヒト抜去歯を用いて検討した。

【研究方法】

グレーシー型スケーラーを用いて歯根全体のルートプレーニングを行った後、セメントエナメル境から約2mm根尖寄りの位置で頬舌方向に切断したヒト抜去小臼歯の歯根を実験に供した(20歯)。近心あるいは遠心の歯根面に正方形のマスキングテープ(3×3mm)を切断面から約2mmの位置に貼付し、歯根全体にProtect Varnish®(Kuraray Medical)を塗布、乾燥させてからさらにネイルバーニッシュを塗布した。乾燥後、テープを除去し、各種濃度(2.0、0.2、0.05%)に調整したフッ化ナトリウム液を正方形窓内に各々応用した。各フッ化ナトリウム液の応用時間と方法は2%:5分間塗布(実験群1)、0.2%:50分間の液中浸漬(実験群2)、0.05%:200分間の液中浸漬(実験群3)とした。なお、フッ化ナトリウム液を応用しない群をコントロールとし、5歯ずつ4実験群を設けた。pHサイクリングは、pH4.7に調整した脱灰溶液(0.05M酢酸、2.2mM CaCl2、2.2mM KH2PO4)とpH7.0に調整した再石灰化溶液(0.02M HEPES、3.0mM CaCl2、1.8mM KH2PO4)を用いて行い、「脱灰18時間⇒精製水による水洗5分間⇒再石灰化6時間⇒精製水による水洗5分間」のサイクルを2回繰り返した。pHサイクリング終了後、Isomet®(Buehler)にて試料を約250µmの厚さで歯軸に対して垂直に切断して薄切切片を作成した。さらに砥石法にて#2000まで研磨し、最終的に約120µmの厚さに調整した。1歯から3枚の薄切切片を作製し、各実験群につき15枚の切片を得た。ガラス乾板(High Precision Photo Plate®,Konica Minolta)上に切片を密着させ、コンタクトマイクロラジオグラフィー撮影装置(S-11,Softex)を用いて加速電圧7kV、加速電流3mA、照射時間20分間の条件下でCMR撮影を行った後、プレートを現像・定着・水洗してCMR画像を得た。光学顕微鏡を用いて脱灰層を観察(×200)し、CCDカメラでデジタル画像を撮影した。汎用画像解析ソフトウェア(Image-Pro Express®,Planetron)を用いて脱灰深さ(µm)を測定した。実験群間の統計学的有意差(p<0.05)は、一元配置分散分析を行った後にBonferroni post hoc testにより検定した。

【結果および考察】

各実験群における脱灰深さの測定結果(平均値 ± 標準偏差)を下表に示す。

  実験群1(2.0%NaF) 実験群2(0.2%NaF) 実験群3(0.05%NaF) コントロール
脱灰深さ(µm) 28.5±5.3
32.2±7.4 39.8±6.8 46.7±6.9

統計分析の結果、実験群1と実験群2の間を除いた各実験群の間に統計学的有意差を認めた(p<0.05)。すなわち、脱灰深さにおいて2%フッ化ナトリウム液を5分間応用した実験群1と0.2%フッ化ナトリウム液を50分間応用した実験群2の間には有意差は認められなかった(p>0.05)が、それら以外の実験群の間に有意差が認められた。したがって、歯根面に対するフッ化ナトリウム液の応用は脱灰抑制効果があることが判明したが、フッ素濃度によりその効果が異なり、洗口剤に含まれる低濃度のフッ素濃度(225ppm)では応用時間を長くしても歯根面の耐酸性を向上させる効果は薄いものと推察される。

成果11

炭酸ガスレーザーの照射条件が歯根面の耐酸性に及ぼす影響

新海航一、平 賢久、鈴木雅也、加藤千景、加藤喜郎

【研究目的】

露出歯根面の臨界pHは高く、根面齲蝕の罹患率が高い一因と考えられる。炭酸ガスレーザー装置を用いた歯質へのレーザー照射はエナメル質あるいは象牙質の脱灰を抑制することが報告されているが、セメント質を有する歯根面に対しての脱灰抑制効果に関する詳細はほとんど知られていないのが現状である。フッ化物塗布、炭酸ガスレーザー照射あるいは両者の併用はエナメル質と同様に根面歯質に対しても耐酸性を向上させるものと期待される。今回は炭酸ガスレーザーの照射条件が歯根面の耐酸性に及ぼす影響についてヒト抜去歯を用いて検討した。

【研究方法】

グレーシー型スケーラーを用いて歯根全体のルートプレーニングを行った後、セメントエナメル境から約2mm根尖寄りの位置で頬舌方向に切断したヒト抜去小臼歯の歯根を実験に供した(20歯)。近心あるいは遠心の歯根面に長方形のマスキングテープ(3×2mm)を切断面から約2mmの位置に貼付し、歯根全体にProtect Varnish®(Kuraray Medical)を塗布、乾燥させてからさらにネイルバーニッシュを塗布した。乾燥後、テープを除去し、炭酸ガスレーザー装置(Opelaser 03SIISP, Yoshida)を用いて各照射条件にて長方形窓内にレーザー照射(ビーム径:1.0mm、デフォーカス)を行った。なお、照射面に対して均一な照射エネルギーが得られるようにムービングステージを用いて試料を移動させながら照射した(移動速度:1mm/sec)。また、レーザーを照射しないコントロールを含め、照射条件により4実験群(下表参照)を設定した。pHサイクリングは、pH4.7に調整した脱灰溶液(0.05M酢酸、2.2mM CaCl2、2.2mM KH2PO4)とpH7.0に調整した再石灰化溶液(0.02M HEPES、3.0mM CaCl2、1.8mM KH2PO4)を用いて行い、「脱灰18時間⇒水洗5分間⇒再石灰化6時間⇒水洗5分間」のサイクルを2回繰り返した。pHサイクリング終了後、自動精密切断機(Isomet®, Buehler)にて試料を約230µmの厚さで歯軸に対して垂直に切断して薄切切片を作製した。さらに砥石法にて#2000まで研磨し、最終的に約100µmの厚さに調整した。1歯から3枚の薄切切片を作製し、各実験群につき15枚の切片を得た(n=15)。偏光顕微鏡(Eclipse LV100POL, Nikon)を用いて脱灰層を観察(×200)しながらDSカメラコントロールユニット(DS-L2, Nikon)でデジタル情報を取得し、偏光画像上で脱灰深さ(µm)を測定した。一元配置分散分析とBonferroni post hoc testにより実験群間の脱灰深さに関する統計学的有意差を検定した(p<0.05)。

【結果および考察】

各実験群におけるレーザー照射条件と脱灰深さの測定結果(平均値 ± 標準偏差)を下表に示す。

実験群 レーザー照射条件
発振モード パルスモード 照射時間(msec) 休止時間(msec) 照射出力(W) エネルギー密度(J/cm2) 脱灰深さ(µm)
1 連続 リピート 5 10 0.5 17 41.0±3.4
2 連続 リピート 10 10 0.5 25 42.3±2.9
3 連続 リピート 50 10 0.5 41 38.4±10.8
コントロール 照射なし 照射なし 照射なし 照射なし 照射なし 照射なし 45.9±2.7

統計分析の結果、実験群3とコントロールの間に有意差が認められた(p=0.007)が、その他の実験群間には有意差は認められなかった(p>0.05)。すなわち、今回設定した照射条件では、脱灰抑制効果は歯根面が受けるエネルギー密度が高い場合(41J/cm2)に認められたが、エネルギー密度が低い場合(17, 25J/cm2)には認められなかった。しかし、実験群3では照射面に薄い炭化が認められ、さらにデータのばらつきも大きかったことから、今後、照射条件を変えてさらに検討していく予定である。