日本補綴歯科学会雑誌,vol27,54-70,1983.

鋳造用リング内埋没材の動態

リングの形状・ワックスパターンの植立位置・緩衝材の影響について

相沢治郎

Behavior of the Investment in Casting Rings

The Influence of the Shapes of Casting Rings,  the Locations of Wax Patterns,  and the Linings

Jiro Aizawa

目次

1.緒言

2.実験材料と方法

2-1.試料の製作と測定

2-2.解析方法

3.実験結果

3-1.実験1 リングの形状の影響

3-1-1.緩衝材がない場合

3-1-2.緩衝材がある場合

3-1-3.鋳造体上部と下部の膨縮量の差

3-2.実験2 ワックスパターンの植立位置と緩衝材の影響

4.考察

4-1.測定点の処理と解析方法

4-2.実験1 リングの形状の影響

4-3.実験2 ワックスパターンの植立位置と緩衝材の影響

4-4.鋳造体の精度とその限界

5.結論

  文献

1.緒言

 歯科鋳造の歴史は,いかにして金属の鋳造収縮を補償し,精度の良い鋳造物を製作するかの歴史であったといっても過言ではないであろう。精密な鋳造物を製作するため,多くの補償法が試みられ研究されてきた。これらの補償法は,ワックスの熱膨張あるいは埋没材の硬化膨張・吸水膨張1,2)・熱膨張などを主体とした補償法,もしくはこれらを複合的に利用した補償法3)であった。これら鋳造収縮の補償,鋳造物の寸法精度に関する研究が進むにつれ,鋳造物の変形の実態とその機構が問題となってきた。鋳造物の変形は,ワックスパターンの変形に基づくもの,埋没材の硬化膨張4,5)・吸水膨張6〜10)・熱膨張3)とリングの膨張との差に基づくもの1118),鋳造収縮の量および方向の不均一性に基づくもの1920),および埋没材の鋳造収縮抑制作用に基づくもの2122)などが考えられる。この中でも鋳造用リングと関連を持つリング内での埋没材の挙動が特に問題である。11192324)と考えられる。すなわち,リング内での埋没材の挙動は,鋳造物の寸法精度や変形を論ずる上での基本となると考えられる。

 このため,本論文では鋳造物の寸法精度の向上および変形機構解明の手掛りとするため,リングの形状25),ワックスパターンの植立位置,緩衝材の3条件を変えて鋳造体の寸法変化について調べ,埋没材のリング内における挙動を明らかにしようと試みた。

2.実験材料と方法

2-1.試料の製作と測定

1)ワックスパターンの製作

 ワックスパターン製作用金型を図1に示した。この金型は外枠と基板より成り,基板には,図2に示したような寸法間隔で試料測定時に標点となる一辺が1.0mmの正四角すい状のくぼみ付与されている。この金型を用い縦15mm20mm厚さ2mmのワックスパターンを製作した。

 ワックスパターン製作の手順は次のとおりである。ブルーインレーワックス(G-C Batch No.111101)をメロット鍋でできるだけ低温で溶解して約40℃に予熱した金型に流し込み,表面が凝固したとき油圧式加圧器(HANAU)を用いて900kg/cm2の圧力で加圧圧接した。硬化後圧接面のワックスを外枠に沿って鋭利なナイフで平らに削ったのち金型から取り出し,実験1では直径2mmのワックススプルー線(G-Cレディーキャスティングワックス)を,実験2では同じく直径2mmの大栄Angel pintubeを,後述する測定点0と5を結ぶ直線の延長線上に取り付けた。なおワックスパターン製作から埋没までの過程は,温度と湿度の影響をさけるため,室温21±1℃,相対湿度45±10%の恒温恒湿中で行なった。

2)ワックスパターンの測定

 スプレー線を付与したのち,内部応力解放のため室温21±1℃,相対湿度45±10%の恒温恒湿中で24時間放置した2627),図3は,ワックスパターンの測定点を示したもので計測の便のため,左・中央,右列の各上方より下方へそれぞれ1,2,3,4,0,5,6,7,8と測定点を数字で表した。

 測定は,ワックスパターン上の各測定点の正四角錐が,完全に再現していることを実体顕微鏡で確認したのち1/1000mm精度のデジタル工具顕微鏡(オリンパスModel MTM)を使用し,計測台上に任意に置いたワックスパターンの測定点0〜8までの座標(xiyi)を求め,これを鋳造体の寸法変化測定の基準値とした。

 測定に当たってはワックスパターンの寸法変化を避けるため,水の入った容器を通して光源の熱を遮断10)し,測定回数を1回とした。測定の順序は,測定点0〜8までをランダムに行なった。

3)鋳造用リング

 実験1では,図4,5に示すような,円筒形(A1)・倒円すい台形(A2)・円すい台形(A3)・たる形(A4)・つづみ形(A5)の5種類のリングを製作し使用した。これらのリングは,厚さ1mmのステンレス鋼製で高さと内部容積は同一である。

 実験2では,円筒形リング(A1)のみを用いた。

4)緩衝剤とワックスパターンの植立位置

 緩衝剤は,厚さ0.8mmのセラミックファイバー(WHIP MIX LINER ROLL)を使用し2829)各条件に従ってリング内面全体をおおうようにライニングした9,30)。吸水やワセリン塗布などの処理は行わなかった。

 実験1のワックスパターンの植立条件を図5と図6に示した8,3132)。すなわち,ワックスパターンの下端の高さがクルーシブルフォーマーより2mmの位置にあり,かつリングの中央となるように植立し,ワックスパターンが鋳造リング内で三次元的中央に位置するようにした。

 実験2では,図7に示したようにワックスパターンの上方端と鋳造用リングの上方開放端との間隔が5mm(これをC1:上部植立と呼ぶ)10mmC2:中央部植立)15mmC3:下部植立)となるような3条件で植立した。

5)埋没・鋳造および鋳造体の測定

 ワックスパターン上の9個の測定点座標を測定したのちパターンをクルーシブルフォーマーに植立し,次の手順で埋没を行なった。室温水を用いメーカー指定標準混水比(0.33)で30秒間真空練和し真空埋没した。埋没材にはクリストバライト(G-C Batch No.020221を,真空練和器には大栄Angel-M 350 Vacuum Mixerを用いた。

 埋没後,リングを相対湿度100%デシケーター中に12時間以上放置したのち,ワックス焼却を行なった。電気炉(大栄Angel Anto Furnace 1000)にプログラム温度コントローラー(千野)を接続して,焼却速度を調整した。焼却速度は,1分間に5℃で650℃まで昇温し,リング内と炉内が均一温度になるよう650℃で20分以上係留後鋳造を行なった。

 実験に用いた合金は,12%金銀パラジウム合金(G-C CASTWELL M.C. : Au12%,Ag45%以上,Pd20%,Cu15%以上)で,1個の鋳造体に使用した金属量は8gである。金属を都市ガス空気炎で融解し,電気炉よりリングを取り出しセット後10秒以内に縦型遠心鋳造機(大栄Angel Caster-VC 500)を用いて鋳造を行なった。スプリングの巻数は2回とした。鋳造後10分以上放冷してから水中に投入,鋳造体を取り出したのち,パラクリーン液(G-C)で10分間超音波洗浄した。

 鋳造体の測定は,ワックスパターンの測定と同様に行ない各測定点の座標を求めた。

2-2.解析方法

1)因子と水準

 実験1で鋳造用リングの形状の効果を調べることを主目的とした。表1に示したようにリングの形状(因子A)を5水準にとり,一元配置法繰り返し6回計30回の実験を,完全ランダマイズして,緩衝材の付与したときとしないときの2条件について行なった。

 実験2は,ワックスパターンの植立位置の効果を調べることを主目的にし,表2に示したように緩衝材の枚数(因子B)と植立位置(因子C)をそれぞれ3水準にとった2因子3水準の二元配置法を,組合わせ条件でランダマイズし,反復4回の実験を行なった。

2)測定値の処理と解析

 図8に示すように任意の位置に置かれたワックスパターンと鋳造体の測定点座標(xiyi)を,測定点0と5を結ぶ直線yと0をとおってyに直交する直線xの座標(xiyi)に変換し,この新座標上でパターンと鋳造体との差を算出して測定値Xi,Yiとした。測定点1〜8までの測定値をX方向・Y方向に分け,表1,表2に示した因子について分散分析を行なって検討した。

3.実験結果

3-1.実験1 リングの形状の影響

3-1-1.緩衝材がない場合

1)各測定点のX・Y方向への変化

 測定値の平均値とその標準偏差を表3に示した。また,測定点1〜8のおのおのについてリングの形状(因子A)による一元配置分散分析を行ない,主効果Aの分散比とその検定結果をまとめて表4に示した。

 その結果,X方向の変化では,測定点2と7のみが,リングの形状間で危険率0.05および0.01で有意になった。他の測定点では,リングの形状間で有意な差が認められなかった。なお,測定点5は,座標変換の際,新座標系の基準として用いたため0であり,解析は行わなかった。

 Y方向への変化では,測定点1と4のみが,リングの形状間で危険率0.05で有意になった。他の測定点では,リングの形状間で有意な差が認められなかった。

 さらに,水準間の違いを知るためtの検定(t(φe,α)√2Ve/neφe25 α=0.050.01 ne=6)を行なったが,有意な部分が散見されたため,有意な部分の全体的膨縮傾向を把握する目的で,新たに次のような解析を行なった。

2)測定点2,7の総合的X方向の変化

 これらの測定点は,リングの中央に位置しているので,鋳造体中央部の膨縮量を知るために,測定点2,7のX方向の測定値を加算して解析した。分散分析の結果,リングの形状間で危険率0.01で有意であった。

 図9は,この膨縮量のグラフで,95%信頼区間(Qi=±t(φe0.05)√Ve/neφe25ne=6)は,±14μmであった。tの検定によると,たる形リング(A4)が,他のすべてのリングと比較して最も収縮している。

3)測定点1,4,6の平均的Y方向への変化

 これらの測定点は,リングの上端に位置しているので,鋳造体上方部の膨縮量を知るために,測定点1,4,6のY方向の測定値を加算して平均化し解析した。

 分散分析の結果,リングの形状間で危険率0.05で有意であった。図10は,この膨縮量のグラフで,95%信頼区間は±13μmである。

 つづみ形リング(A5)と,円筒形(A1)倒円すい台形(A2)円すい台形(A3)に差があり,つづみ形リング(A5)のみが収縮している。しかし,たる形リング(A4)との間には差がなかった。

 以上の結果の全容を,リングの形状別に鋳造体の膨縮変化として,図1115に示した32)。これらのグラフは,ワックスパターンの各測定値を基準点とし,それに対する鋳造体の膨縮量の点推定を座標にとったもので,パターンの縮尺は10倍,各測定点での膨縮量を300倍に拡大したものである。X方向とY方向の細線区間は,各測定点での95%信頼区間を示す。

3-1-2.緩衝材がある場合

1)各測定点のXY方向への変化

 測定値の平均値とその標準偏差を表5に示し,リングの形状(因子A)による一元配置分散分析の結果における分散比と検定結果を表6に示した。その結果,X方向の変化では,すべての測定点で,リングの形状間に有意な差が認められなかった。なお,測定点5は解析基準である。

 Y方向の変化では,測定点3,5,8のみが,リングの形状間で危険率0.05および0.01で有意であった。他の測定点では,リングの形状間で有意な差が認められなかった。

 さらに,水準間の違いを知るためtの検定を行なったが,有意な部分が散見されたため,有意な部分の全体的膨張傾向を把握する目的で,新たに次のような解析を行なった。

2)測定点3,5,8の平均的Y方向への変化

 これらの測定点は,リングの下端に位置しているので,鋳造体下方部の膨縮量を知るために,測定点3,5,8のY方向の測定値を加算して平均化し解析した。

 分散分析の結果,リングの形状は,危険率0.01で有意であった。

 図16は,この膨縮量のグラフで,95%信頼区間は±12μmである。

 倒円すい台形リング(A2)と円筒形(A1),円すい台形(A3),たる形リング(A4)に差があり,倒円すい台形リング(A2)が最も膨張した。しかし,つづみ形リング(A5)との間には差はない。また,たる形リング(A4)は,他すべてのリングより最も膨張量が少なかった。

 以上の結果の全容を,リングの形状別に鋳造体の膨縮変化として図1721に示した。

3-1-3.鋳造体上部と下部の膨縮量の差

 鋳造体の膨縮変化の動態図から,緩衝材がある場合には,リングの形状にかかわらず,Y方向で鋳造体下部が上部にくらべ一様に膨張する傾向があると思われたため,緩衝材がない場合ある場合の両者について,鋳造体上方部測定点1,4,6のY方向平均膨縮量と鋳造体下方部測定点3,5,8のY方向平均膨縮量に差があるかを検定した。検定は,対応ある平均値の差の検定(t(φe,α)■d√Vd/nφe=5α=0.050.01n=6)を用いた。表7は,そのt値と検定結果である。

 緩衝材がない場合では,つづみ形リング(A5)が,危険率0.05で有意となり,鋳造体上部が膨張しているが,他のすべてのリングでは差がなかった。

 緩衝材がある場合では,すべての形状のリングが危険率0.05および0.01で有意となり,鋳造体上部より下部が膨張した。

3-2.実験2 ワックスパターンの植立位置と緩衝材の影響

1)各測定点のX・Y方向への変化

 測定値の平均値とその標準偏差を表8-18-3までに示した。緩衝材の枚数(因子B)とワックスパターンの植立位置(因子C)について二元配置分散分析を行ない,主効果と交互作用効果の誤差項に対する分散比およびそれらの検定結果を表9に示した。なお分散分析は危険率0.01で有意でないRおよびB×Cについては誤差にプールして解析した。(RF240.10)=2.33 B×CF240.10)=2.19すべての測定点でR:反復数は有意とならなかったため,Rはすべて誤差項にプールした。)

 X方向の変化では,測定点1,2,3,6,7,8で因子B:緩衝材の枚数が危険率0.01で有意であった。測定点4では,いずれの因子にも有意差はなかった。なお,測定点5は解析基準である。図22と図23は,この膨縮量のグラフで,代表的例である測定点1と2について示したものである。図中の95%信頼区間(Qi=±t(φe0.05)√Ve/neφe2731ne=12)は(Qi1X)=±11μmQi2X)=±5μmである。tの検定(t(φe,α)√2Ve/ne φe2731 α=0.050.01 ne=12)によると,鋳造体上下側方部の測定点1,3,6,8のX方向の変化は,同じ傾向となり,緩衝材なしとありの間に差が認められ緩衝材のあるものは膨張しているが,1枚と2枚の間には差はなかった。また,鋳造体中央側方部の測定点2,7のX方向の変化は,同じ傾向となり,緩衝剤なし,1枚,2枚の三者間に差がり,枚数が増すに従い膨張した。

 Y方向の変化では,測定点1,3,5,6,8で,因子B:緩衝材の枚数,測定点1,4,5,6,8で,因子C:パターンの植立位置,測定点3,4,8でB×C交互作用が危険率0.05および0.01で有意でった。

 さらに,水準間の違いを知るためtの検定(t(φe,α)√2e/ne φe2731 α=0.050.01 ne=4,36)を行ったが,有意な部分が散見されたため,有意な部分の全体的膨縮傾向を把握する目的で,新たに次のような解析を行なった。

2)鋳造体上部と下部の膨縮量の差

 鋳造体上方部測定点1,4,6のY方向平均膨縮量から鋳造体下方部測定点3,5,8のY方向平均膨縮量を差し引き,その値をもとに鋳造体上部と下部の膨縮量に差があるかを検討した。分散分析の結果,因子C:パターンの植立位置とB×C2因子交互作用効果が危険率0.01で有意となった。図24は,この膨縮量のグラフで,95%信頼区間(Qi=±(φe0.05)√Ve/ne φe27 ne=4)は±13μmである。tの検定(t(φe,α)√2Ve/ne φe27 α=0.050.01 ne=4)によると,植立位置の影響は,緩衝材なし(B1)のものには認められないが,1枚(B2),2枚(B3)のものには認められ,上部植立(C1)は鋳造体の上方が下方に比べ膨張し,下部植立(C3)は鋳造体の下方が上方に比べ膨張,中央部植立(C2)は,上方下方ともほぼ均等に膨張した。

 以上の結果の全容を,各因子と水準における鋳造体の膨縮変化として図2533に示した。X方向とY方向の細線区間は,95%信頼区間(Qi=±t(φe0.05)√Ve/ne φe2731 ne=4,1236)を示す。

4.考察

4-1.測定点の処理と解析方法

 測定点の処理と解析方法は,中村らの方法1516)に準じ,鋳造体中央部を基準とし座標変換し解析した。この方法は,本実験に使用した場合,中央部基準点も移動するため,リングの形状,パターンの植立位置によって,各測定点が上下に移動しているにもかかわらず,その結果が現らわれない可能性がある。ほかにもスプルー側基底面を基準とし,座標変換し,解析する方法1719)も用いられているが,鋳造体以外の部分の基準点をもうけ,絶対座標系で解析できない以上,同様に,各測定点の純粋な動きを測定するようなことは不可能であると考えられる。

 本実験では,リングの形状が対称的であり,パターンがその中央に位置していることから,鋳造体中央部を解析の基準とした。一般に修復物はインレー,アンレーを始め,複雑で様々な形状を有しているため,単なる鋳造体の長さでは精度について論ずることはできない。鋳造体が,その中央を基準としてどのように変形するかという点に着目したならば,この方法は,鋳造体の変形における新しい知見を導き出す手段として十分であると考えられる。

4-2.実験1 リングの形状の影響

 埋没材の混水比が同一である場合,リングの大きさ・パターンの大きさ・緩衝材の枚数の三者間には,鋳型の膨縮に関し一定の関係が成立する111329)。リングとパターンまでの埋没材の量が多ければ多いほど,埋没材の膨張はリング壁面に阻止され内方へ向い,結果として鋳型は収縮する。緩衝材の枚数を増すにつれ,その緩衝能力は増加し鋳型は膨張する傾向になるが限界がある。これは鋳型の膨縮に関して一般にいわれていることであるが,しかしそれだけで鋳造体の変形を論ずることはできない。鋳込み時の部分的な埋没材の熱変形,合金の凝固収縮の量および方向の不均一性,埋没材の鋳造収縮抑制作用などの問題も考慮にいれなければならない。本実験では,これらすべてを含んだ鋳造体の変形から埋没材の挙動を推論することを目的としているが,後者の問題を定量した文献は少なく,それをふまえて考察するのは難しいため本論文では,過去に立証された三者間の関係を前提として考察した。

 1)緩衝材がない場合

 リング径方向(X方向)の変化では,各リングとも鋳造体側方部の測定点1,2,3,6,7,8で,大きく収縮している。鋳造体上下側方部の測定点1,3,6,8では,各リング間に差がなかったが,鋳造体中央側方部の測定点2,7でリング間に差があり,たる形リング(A4)が,ほかの4つのリングにくらべさらに収縮している。リングの形状が,たる形リング(A4)と正反対の関係にあるつづみ形リング(A5)においては,たる形リング以外の3つのリングと差がなかった。

 このことから,たる形リングが中央側方部X方向で収縮したのは,単なる埋没材の厚さの差の影響というより,リング内の埋没材の膨張をリング中央部に向かわせる封鎖的形状2,3,24)が大きく関与していると考えられる。

 また,たる形リング(A4)では,亀裂による鋳造欠陥が高頻度で認められた。これもリングが封鎖的形状のために,埋没材の膨張がリング壁に阻止されリング中央部に集中し,結合力の弱いクリストバライトに,亀裂を生じた23243334)と考えられる。

 リング軸方向(Y方向)の変化では,鋳造体の上部において,つづみ形リング(A5)が,円筒形(A1),倒円すい台形(A2)円すい台形リング(A3)より収縮しており,たる形リング(A4)とは差がない。

 これは,つづみ形リング(A5)では,リング中央の狭窄部によりリング軸方向(Y方向)上下への埋没材のスムースな動きが抑制され,たる形リング(A4 では,リングの封鎖的形状により埋没材の膨張がリング中央部に向かったためと考えられる。

 各リングとも鋳造体下方部で差がないのは,クルーシブルフォーマーにとられたスペースが影響したためと考えられる。

 鋳造体上部と下部の膨縮量の差の結果は,つづみ形リング(A5)だけが有意となり,上部より下部が膨張した。

 これは,前述の中央部の狭窄により上部が収縮したためと思われる。ほかの4つのリングに差がないのは,埋没材の膨張によってリングとの摩擦力が生じ,埋没材の動きを抑制するためと考えられる。

2)緩衝材がある場合

 リング径方向(X方向)の変化では,各リングともリングの形状による影響が全く認められなかった。このことから,リング径方向(X方向)のリングの形状の影響は,緩衝材により簡単に取り除かれると考えられる。

 リング軸方向(Y方向)の変化では,鋳造体下方部でのみ差が認められた。倒円すい台形リング(A2)と円筒形(A1),円すい台形(A3),たる形リング(A4)に差があり,倒円すい台形リング(A2)がより膨張している。しかし,つづみ形リング(A5)との間には差がなかった。このように倒円すい台形リング(A2)が下方部で大きく膨張するのは,クルーシブルフォーマーのスペースを除いたスプルー側の埋没材の量がどのリングの場合よりも少ないため,埋没材の厚さの薄い方へ膨張する傾向を示したと考えられる。また,つづみ形リング(A5)では,スプルー側で逆に埋没材の量が多いにもかかわらず倒円すい台形リング(A2)との間には差がなかった。これはリング中央の狭窄部により埋没材の膨張方向が2分され,下方部の埋没材は下方に向うためであると考えられる。また,たる形リング(A4)では,他のすべてのリングより膨張量が小さかった。これは,リングの形状が前述の封鎖的形状によるためと考えられる。このように緩衝材がある場合,リング下方部のみ差が認められたのは,下方部では緩衝材によりクルーシブルフォーマーによって除かれるスペースとリングの形状による埋没材の量の影響が出たためと考えられる。

 また,鋳造体上部と下部の膨縮量の差の結果は,すべてのリングにおいて鋳造体上部より下部が膨張している。これは,緩衝材がある場合には,クルーシブルフォーマーによって除かれるスペース,つまり埋没材の中での相対的植立位置が鋳造体の精度に大きく影響するためと考えられる。

4-3.実験2 ワックスパターンの植立位置と緩衝材の影響

 リング径方向(X方向)への変化では,緩衝材の影響のみが認められ,植立位置の影響と交互作用の影響は認められなかった。すなわち,鋳造体上下側方部の測定点1,3,6,8では,緩衝材なしとありの間に差があり,緩衝材のあるものは膨張しているが,1枚と2枚の間には差はない。鋳造体中央側方部の測定点2,7では緩衝材なし,1枚,2枚の三者間に差があり枚数が増えるに従い膨張する。

 つまり,緩衝材なしでは一様に大きく収縮し,2枚では一様に膨張している。しかし1枚の場合に限り鋳造体上下部と中央部で差があり,中央部の膨張量が上下部に比べて小さくなっている。

 このように,緩衝材の枚数により違いがあるのは,1枚では緩衝能力が十分ではないため,鋳造体の上下部で,リング開放端の影響を受け,中央部では,リング壁の影響を受けるためと思われる。2枚では,緩衝能力が増加し,リング径方向(X方向)では,統計上,上下部と中央部での膨縮量の差がなくなったと考えられる。つまり,リング壁への膨張量が増すことにより,リング径方向(X方向)でのリング開放端の影響は取り除かれると考えられる。

 リング軸方向(Y方向)への変化では緩衝材のある場合には,植立位置の影響が認められた。

 それは,1枚2枚ともに同じ傾向であり,上部植立は鋳造体の上方が下方にくらべ膨張し,下部植立は,鋳造体の下方が上方にくらべ膨張し,中央部植立では,上方下方ともほぼ均等に膨張している。

 緩衝材がない場合,植立位置の影響が認められなかったのは,埋没材の膨張によってリング壁との摩擦力が生じ,埋没材の動きを抑制したためと考えれれる。また,緩衝材のある場合に,このようなかたちの植立位置の影響が認められたのは緩衝材によってリング壁の抑制力による摩擦から埋没材が解放され,自由な動きを生ずるとともにリング開放端の影響を大きく受け,上下開放端に近い部分が膨張したためと思われる。そのため変形の少ない鋳造体を製作するには,上下の埋没材の厚さを十分とる必要がある。高橋35)は,中村,上条のデーターに基づき上下10mm以上離すべきであると述べている。また従来よりはるかに緩衝能力の大きいセラミックファイバー0.8mmを2枚使用しているにもかかわらず,植立位置の影響が認められたことは,次のように考えられる。

 (1)リング内では,緩衝材の能力に限界があり,緩衝材の枚数を増していっても,異方性を取りさることができない。あるいは,(2)異方性がなくなったにもかかわらず植立位置の影響が出てしまった。つまり,リング上方開放端では,埋没時一度遊離した水分が,再び埋没材に加水され,吸水膨張を生じ,リング下方開放端では,埋没材が沈澱し,埋没材の粒子の緻密度が大きくなる,といった一般によくいわれている現象の影響が大きく発現する18)。また,(3)その両者が影響すると考えられる。これらについては,緩衝材を3枚,4枚とさらに増加することによって明らかにできたのではないかと予想される。緩衝材を増加していくと,リングの径を小さくすることになるため同一レベルで論ずることはできないが,少なくともリングの実質の径が小さくなり,緩衝能力も増すためリングの影響から全く開放された自由膨張が起こり得る可能性があり,このことについてはっきりした結論を出すことができたかもしれない。ここで問題となるのは,クリストバライト埋没材の場合,完全な自由膨張をさせると埋没材の大きな膨張のためキレツを生じ,崩壊する34)。そのため,わずかに抑制していなければならないが,そのときのリングの影響による異方性を無視できるほど小さくすることが可能か疑問である。しかし,緩衝材2枚の場合,リング中央部植立の鋳造体が変形が少なくほぼ均等な膨張を示すことを考えると,そこまで追求の必要はないかもしれない。

4-4.鋳造体の精度とその限界

 鋳造体の精度について検討するにあたり,最終目標である精度の良い鋳造体とはどのようなものか明確にされていない。それは,鋳造体の種類によってさまざまであるがクラウンでは支台と同じ鋳造体を製作し,約30μmの均等なセメント層は,スペーサーによって得るという考え方,もしくは,鋳造体自体を均等に30μm膨張させ,セメント層を確保するという考え方36)が主流と思われる。このいずれの考え方に基づくとしても,原型を変形させないということが前提となる。現在,補償理論は,印象の収縮,模型材の膨縮,ワックスの膨縮,埋没材の膨張,金属の収縮等を総合的に考え,成立している37)。これらすべての過程で変形のないことが理想であるが,これらが解決されるには,さらに研究を要すると思われる。著者は,埋没材の膨張と金属の収縮に焦点を合わせ変形のない鋳造体を製作することを目標に,その精度について追求した。この結果,実際1における実験の場では,緩衝材1枚のたる形リングが原型に近く,ほぼ変形のない鋳造体が得られた。また実験2では,緩衝材2枚の中央部植立の鋳造体が,原型よりほぼ均等に30μm膨張しており変形のない鋳造体が製作された。しかしこの両者の鋳造体の各測定点で4〜30μmのバラツキがみられた。このように理想的な条件下で実験を行ない,いかに点推定値が理想に近くなろうとも依然として大きなバラツキが存在する36)。

 また,実験1の円筒形リングの緩衝材ありと,実験2の下部植立で緩衝材ありの条件で製作した試料は,全く同一材料,同一条件でありながら,鋳造体の大きさに違いが生じた。変形の傾向は同じにしてもこのように大きさに違いがあるのは,実験の場が違うためであり,同一の大きさの鋳造体の再現性には,疑問が残る。

 変形しやすいワックスパターンを埋没し,金属を溶かし,高温の鋳型に流し込むといったプロセスを取る限り,鋳造体の精度には限界があると思われる。

5.結論

 9個の測定点を持つ板状パターンを用いて12%金銀パラジウム合金を鋳造し,鋳造体の寸法変化をリング径方向と軸方向に分け解析,鋳造用リングの形状,ワックスパターンの植立位置,緩衝材によって鋳造体の寸法がどのように変化するかを調べた結果,次のような結論を得た。

5-1.リングの形状の影響

 1)内容積が一定の場合,リングの形状を変えても鋳造体の寸法に大きな影響を生じなかった。

 2)緩衝材がある場合には,鋳造体の上部より下部が膨張した。

 3)たる形リングで緩衝材がある場合に最も変形の少ない鋳造体が得られた。

5-2.ワックスパターンの植立位置と緩衝材の影響

 1)リング径方向における鋳造体の寸法は植立位置の影響を受けないが,緩衝材の影響が認められた。緩衝材がない場合には,鋳造体はリング径方向に一様に収縮し,緩衝材が1枚の場合には膨張傾向を示すが,鋳造体中央部では上下部より膨張率は小さかった。しかし,2枚になるとほぼ均等に膨張した。

 2)緩衝材がない場合には,リング軸方向における鋳造体の寸法は植立位置の影響を受けなかった。緩衝材のある場合には上部植立では鋳造体の上方が,下部植立では下方が膨張,中央部植立ではほぼ均等に膨張した。

 3)緩衝材2枚を使用した中央部植立の鋳造体が,最も変形の少ない鋳造であった。

 稿を終わるにあたり,終始懇篤なご指導とご校閲を賜った日本歯科大学新潟歯学部補綴学教室第2講座畑 好昭教授に深く感謝の意を捧げるとともに,ご教示,ご校閲を賜った同理工学教室中村健吾教授に深甚なる謝意を表します。また,本研究を行うにあたり種々のご協力をいただきました日本歯科大学新潟歯学部補綴学教室第2講座各位,同理工学教室各位に対して,心から感謝致します。

 なお本論文の要旨は,昭和56年度日本補綴歯科学会関東支部会学術例会(1981年2月27日,松戸),昭和57年度日本補綴歯科学会関東支部会学術例会(1982年6月19日,新潟)において発表した。

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