歯学,vol69,1090-1125,1982.

鋳造修復物の適合性におよぼすリング内埋没材の動態

原田博夫

The Behavior of  Investment in the Casting Ring Influencing upon the Fitness of the Cast Restoration

Hiroo HARADA

1.緒言

 現在,鋳造技術の進歩ならびに関連材料の改良により鋳造修復物は優れた適合性を持つようになってきた。

 歯科鋳造法は1907Taggart1)により歯科界に導入され,1926Coleman2)が合金の鋳造収縮を測定し,これを補正する理論を確立したことに始まる。鋳造収縮を埋没材の膨張によって補正するというColemanの考えは今日まで引きつがれている。

 初期の鋳造収縮補正法にVan Horn3),Coy4)らによるワックスの膨張による補正法があったが,ワックスの変形が指摘され,この方法は否定された。Taylerら5)はクリストバライト埋没材による補正法を示し,鋳造リングにアスベスト・ペーパを裏装するテクニックを紹介した。その後,Phillips6)  が一連の鋳造操作の精度を高め,今日の鋳造テクニックの基礎を確立した。また,Scheu7)は埋没材が水中で大きな硬化膨張を生ずることを指摘し,Hollenback8)はこの現象を利用して補正する吸水膨張テクニックを確立した。その後,この埋没材の吸水膨張補正方法に関して数多くの研究が行われ9−11),現在にいたっている。

 しかし,一方ではこの吸水膨張による鋳造収縮補正はワックス・パターンを変形させるのではないか,という指摘がある12-15)。Smyd12),Jφrgensen13)は埋没材の硬化膨張に対するワックス・パターンの抵抗力がモールド・キャビティを変形させるとしている。これ以降,埋没材の硬化膨張がワックス・パターンの寸法変化におよぼす影響について数多くの報告15-17)がなされてきた。総山15)は硬化膨張を大きく発現させる吸水膨張補正法はワックス・パターンを変形させる原因となることを示し,アスベスト・リボンにワセリンを塗布して水分の授受を防止した乾アスベスト法を推奨し,合金の鋳造収縮補正法は主に埋没材の加熱膨張によるべきであると主張した。

 クリストバライト埋没材自体の改良がなされた今日では埋没材の加熱膨張は鋳造収縮補正の有効な手段であるが,一方ではこのクリストバライト埋没材の急激な加熱膨張が鋳造リングの影響を受け,リング内埋没材は不均一な動態を示すことが報告されている1825)。吉田18)は近遠心的に鋳造冠を切断して適合状態を調べ,鋳造体は鋳造リングの上下方向に膨張する傾向にあると指摘した。中村ら2021)はビッカースの圧痕を利用した標点を付与した円板状パターンでクリストバライト埋没材のリング内における熱膨張異方性を確認し,アスベストライニングのないときは鋳造体がリング開放端側へ膨張変形を起こすことを示した。

 以上の報告から,鋳造リング内のワックス・パターンおよびモールド・キャビティーは均一には膨張していないことは明らかである。

 著者ら26)は鋳造リングの上下開放端側を封鎖した場合,リング内埋没材の動態はどのように変化するのかという点に着目して封鎖型リングを考案,製作し,このリングが鋳造冠の適合性にどのように影響するかを追求した。その結果,モールド・キャビティ内埋没材とその周囲埋没材との間に拮抗力が存在し,このことが鋳造冠の寸法精度に影響をおよぼしていることを示唆した。そして,さらに著者らはモールド・キャビティから5mm の位置でその歯頸部を中心に上下10mm幅の空洞をモールド・キャビティ周囲に設定する緩衝帯を考案し,その有効性を報告した。

 今回,著者はこのリング内埋没材の動態がどのように実際の形態におけるモールド・キャビティに作用して各種鋳造修復物の寸法精度に影響をおよぼしているか,さらにはこのリング内埋没材の動態動態をどのようにコントロールしたら適合の良い鋳造修復物が得られるのかという点に着目した。そこで著者は最初に著者らの考案,製作した封鎖型リングを用い,板状パターンにてリング内埋没材の動態を再検討し,つぎにモールド・キャビティ周囲にリング状の空洞を設定する上記の緩衝帯を通常のリング内で色々に変化させてクリストバライト埋没材やリン酸塩系埋没材の各種埋没材,さらには全部鋳造冠およびMODインレーの種々な鋳造修復物に応用した。さらに,著者の考案したモールド・キャビティの一部に限局して空洞を設定する一部緩衝帯をMODインレーに応用した。

 本論文は以上の一連の方法を用いて上記研究目的を追求したものである。

2.封鎖型リングの影響

2.1. 実験方法および実験材料

2.1.1. 因子と水準

 本実験では著者らが以前報告した26)鋳造リングの上下開放端方向を封鎖した封鎖型リングの影響をひき続いて板状パターンにて追求するために表1に示すように,因子B :アスベスト・ライニング(なし,0.8mm 1枚,0.8mm 2枚)因子C:鋳造リングの形態(通常の開放型リング,封鎖型リング)の各因子と水準を採り上げた。

2.1.2. 実験材料

 本実験に使用した器具,材料を表2にまとめて示した。

1)封鎖型リング

 図1および図2は本実験に使用した内径46mmの封鎖型リングである。鋳造リングの上下開放端方向への埋没材の膨張を完全に抑制させるため,この封鎖型リングはネジ切りしたリング外側面にステンレス製の封鎖板とクルーシブルをネジで固定できるように設計し,この封鎖板を固定したままワックス焼却および鋳造操作を行うことができるようにした。この上部封鎖板に直径3mmの埋没材の流出孔を5カ所設定し,下部封鎖板のクルーシブルの角度は80度に統一した。

2)ワックス・パターンの製作用金型

 板状パターン製作用金型を図3に示す。この金型は外枠と中子(なかご)とに分れ,中子表面には図4に示すように,試料測定時の標点とすべく,9カ所にビッカースかたさ試験機によるダイヤモンド圧子の圧痕を付与してある。この中子を外枠に適合させ,その上からインレー・ワックスを軟化圧椄することにより,縦15mm,横20mm,厚さ2mmのワックス・パターンが製作できるようになっている。

2.1.3. 試料の製作

1)ワックス・パターン

 インレー・ワックスおよびワックス・パターン製作用金型を約50℃に設定した江藤社製恒温恒湿器内に保持し,シリコーン・オイルを塗布した金型上に軟化したワックスを約1000bs/cm2の荷重下で圧入し,調整後,1時間以上デシケータ中に放置した2728)。その後,外枠を除去し,パターン下面中央に直径2.5mmのレディ・キャスティング・ワックスにてスプルー線を植立し,30分間の放置後,中子からワックス・パターンを分離した。

2)埋没

 ワックス・パターンをリングを中央に位置するようにクルーシブル・フォーマに植立後,クルーシブル・フォーマとリングをネジで固定した。図5はリング壁とワックス・パターン

との関係を示す。

 また,リングおよび封鎖板に接着剤を薄く塗布してアスベスト・リボンとリング壁を密着,裏装状態を一定にした。このアスベスト・リボンの処理はシリコーン・オイルを噴霧した。いわゆる乾アスベスト法を用いた。図6はワックス・パターンを植立した封鎖型リングの斜め上面観である。

 埋没材の混水比はメーカ指示の0.33とし,温度変化によるワックス・パターンの変形を防止するため室温水を使用し2930),大気中で15秒間,真空練和器にて30秒間真空練和したのち,大気中でワックス・パターンの埋没を行った。

 封鎖型リングの条件ではリング上端まで埋没材を満したのち,直ちに封鎖板を鋳造リングに固定した。また,開放型リングの場合にはワックス焼却前にクルーシブル・フォーマ(下部封鎖板)を除去した。その後,密閉した容器に3〜24時間放置後,ワックスの焼却に移った。

3)ワックス焼却

 ワックスの焼却は室温から650℃まで80分間で上昇させ,その温度で20分間係留して鋳造に移った。このとき,開放型リングは通法に従ったが,封鎖型リングの場合は上下の封鎖板を椄合したままワックスの焼却を行った。

4)鋳造

 鋳造には表2に示したJelenco社製横型遠心鋳造機を使用し,鋳造圧力(遠心力)を一定にするため,スプリングの巻き数を3回に固定した。鋳造合金はKメタルで鋳込温度は融点の約10%増しの1027℃とした。鋳造完了したものは室温まで放冷し,リング内から注意深く取り出した鋳造体のスプルをレジン・ディスクで切断後,パラクリーン液中で10分間超音波洗浄を行った。

2.1.4. 測定方法

 試料の測定は,スプルー線を付与したワックス・パターン上の各標点と,鋳造完了した試料の各標点をオリンパスデジタル工具顕微鏡Model MTMにて測定した。

 その測定方法は,図4のように試料中央の標点を原点(0,0)として定めたときの各標点の座標点を測定し,以下の計算式により試料の各部位の長さを算出した。たとえば,図4の標点1と4の間の長さは以下のようになる。

 標点1−4の長さ=(X1−X4)2+(Y1−Y4)2

 ただし,標点1の座標(X1,Y1)

     標点4の座標(X 4,Y4)

上記計算式より算出した試料のおのおのの部位での長さ,つまり,表3のX軸(1−4,2−5,…8−9),Y軸(1−2,2−3,…8−9)から同様に算出した同部位でのワックス・パターンの値を差し引いて,原型(ワックス・パターン)の値に対する膨張率を求めた。このようにできるだけワックスの変形因子を除くことによりリング内埋没材の動態をより明確に検討できるようにした。

2.2. 実験結果

 前記方法で算出された試料各部の原型(ワックス・パターン)に対する膨張率を表3にまとめて示した。この各測定値,たとえば1−4,4−7での値は1−4と4−7の膨張率の平均値である。

 さらに,近似的に各座標点がXY軸上にあるとしてこれらの値を実験条件に従いプロットしたものが図7である。図中の普通の太さの実線(—)はワックス・パターンの大きさ,パターン外側の破線(…)は+1.0%を,パターン内側は−0.1%の膨縮率を,太い実線(—)      は鋳造後の膨縮変化を示す。

 アスベストライニングのない場合

 通常の開放型リング側壁方向(X軸)で−0.65%の収縮となり,リング上下開放端方向(Y軸)へは1.04%の膨張となった。一方,封鎖型リングではリング側壁方向で−0.62%となり,開放型リングよりごくわずかではあるが,収縮量の減少傾向が認められた。

 また,開放型リングに見られたリング上下開放端方向への膨張が明らかに抑制されて0.04%となった。

 アスベストライニング1枚の場合

 開放型リングではアスベスト1枚ライニングすることでリング側壁方向への埋没材の膨張が発現し,膨縮率が−0.07%となった。また,リング上下開放端方向へは0.81%の膨張を示し,アスベストライニングのない場合にくらべて0.23%の減少が認められた。一方,封鎖型リングではリング側壁方向で0.21%,リング上下開放端方向では0.10%となり,ほぼ原寸と等しく,均一な膨張傾向を示した。

 アスベストライニング2枚の場合

 開放型リング側壁方向で0.76%,リング上下開放端方向で0.78%となり,ほぼ0.8%の均一な膨張傾向を示した。一方,封鎖型リングではリング側壁方向で0.77%,リング上下開放端方向で0.58%の膨張となった。

 小括

 封鎖型リングにおける板状パターンの実験結果をまとめると以下のようになる。

1)    アスベストライニングのない場合,リング内埋没材は通常のリングでは開放端方向へ大きく変形膨張した。しかし,このリング開放端を封鎖することによりその動態は容易に抑制された。

2)    アスベスト1枚ライニングの場合,通常のリングでは原型パターンと同形態とならないが,封鎖型リングでは解放端方向の埋没材の膨張が抑制され,ほぼパターンと同型態となった。

3)アスベスト2枚ライニングした場合,両リングともに,リング側壁および開放端方向に均一に過膨張となった。

3.フルキャストクラウンの寸法精度におよぼす緩衝帯の影響

3.1. クリストバライト埋没材使用の場合

3.1.1. 実験方法および実験材料

1)因子と水準

 本実験では表4に示すように,鋳造修復物の寸法精度に大きく影響をおよぼすと思われる

因子B:アスベストライニング(なし,0.8mm 1枚,0.8mm 2枚)を第一に採り上げ,以下パターン周囲にワックス・リングを設定してモールド・キャビティとリング壁との間に,ある一定の空洞を設定する前記の緩衝帯に関する,因子A:緩衝帯の長さ(パターン歯頸部を中心に10mm,パターン中央を中心に20mm,パターン歯頸部を中心に30mm),因子D:緩衝帯の距離(パターン歯頸部から5mm,7mm,9mm),因子E:緩衝帯の厚さ(0.5mm1.0mm1.5mm)の3因子を加えた。

2)    実験材料

 本実験では,G-C社製ブルー・インレー・ワックス(BatchNoEZ 5 ),G-C社製クリストバライト埋没材(BatchNoEz 29)を使用した。また,ファーネスは大栄社製AF1600を用いた。なお,他の材料および器具は表2と同様である。

a)ワックス・パターン製作および寸法

 精度測定用金型

 図8にアンバー製金属原型金型(a)と黄銅製のワックス・マトリックス(b),およびワックス加圧用シリンダー(d)を示した。このマトリックスは分割式で,原型金型周囲にマトリックスバンド(c)で固定して原型金型とマトリックスの間に流し込み,均一な厚さのワックス・パターンが製作できるように工夫されている。

 原型金型の寸法および各部の名称を図9に示した。この原型金型のショルダーリングと咬合面部3mmの部分(以下,頭部キャップと呼ぶ)が取り外せるので鋳造冠が膨張した場合でも測定が可能である。

b)ワックス・リング製作用器具

 ワックス・リング製作用器具を図10に示した。これは直径22mm26mm30mm,の円柱(a)と内径,横82mm,縦30mm,厚さ3mmの外枠および1.5mm2.0mm2.5mmの厚さの異なる金属板(b)より成っている。これらの金属板を外枠に適合させ,そこへG-C社製パラフィン・ワックスを流し込み,強圧を加えて厚さ0.5mm1.0mm1.5mmのワックス板を製作した。さらにそのワックス板をそれぞれの直径の円柱に巻きつけて,各条件のワックス・リングを製作した。

c )実験用鋳造リング

 本実験に用いたステンレス製鋳造リングは図11に示すように高さ50mm,内径46mm,厚さ1.0mmである。このリング側壁にはワックス・リングを設定する際の基準とするため,リング上端から20mmおよび25mmの位置に2.5mm小孔を3カ所設けた。

3)実験計画   

 本実験では表4の因子を表5のようにL27313)直交配列表の各列に割りつけ,L27313)による2回の要因交絡実験を行った。一連の実験結果よりフルキャストクラウンの寸法精度に大きく影響を及ぼすと考えられるアスベストライニングの因子を直交配列表の第1列に,他の因子を2,5,8列に割り付け,アスベストライニングの効果と各因子との交互作用効果を検出できるようにした。なお,この実験順序は技術的誤差や日間変動による誤差が確率化するように,完全にランダマイズして行った。

4)試料の製作

a)ワックス・パターン

 ワックス・パターンはマトリックスを装置した金型にワックス加圧器(図8d)を置き,その上方からメロット鍋にて可及的低温で溶解したインレー・ワックスを流し込み30

秒後,油圧式加圧器にて1000lbs/cm2の圧力を加えたまま室温まで放置した。その後,直ちに余分なワックスを除去してパターンの調整を行い,咬合面中央に直径2.5mmのスプレー線を植立した。ついでマトリックスを除去しワックス・パターンを金型上に3時間以上放置2728)したのちに埋没操作に移った。

b)埋没

 原型金型より注意深く撤去したワックス・パターンはリング上端より20mm下方で,リング中央に位置するようにクルーシブル・フォーマに植立した。図12にワックス・リングの長さとワックス・パターンとの関係を示した。ワックス・リングはパターン歯頸部を中心に10mm幅(a),パターン中央を中心に20mm幅(b),パターン歯頸部を中心に30mm幅(c)に設定した。この30mmの場合,ワックス・リングとリング上端とは5mmの埋没材の厚さがある。

 このワックス・リングが常にリング内パターンと一定の関係を保つように,ワックス・リングを鋳造リング側壁に設定した2.5mmの小孔を基準として3カ所からレディ・キャスティング・ワックスで保持した。図13の上はアスベストライニングのない鋳造リングにパターンから5mmの位置で,長さ30mm,厚さ1.5mmのワックス・リングを設定した試料の上面観を,下は0.8mm,1枚アスベストライニングした状態を示した。

 埋没材の混水比はメーカー指示の0.33とし,練和および埋没方法も前記実験と同様とした。

c)ワックス焼却

 焼却条件は前記実験と同様とし,実験中は自動電圧調整器をファーネスに接続し,その電圧を一定に保った。

 図14にアスベスト1枚ライニングした鋳造リング内でパターンから5mmの位置に厚さ1.5mmのワックス・リングを各条件下で設定して埋没したのち,縦切断し,脱ろうした状態を示した。

b)鋳造

 鋳造にはKメタルを用い,その鋳造方法は前記実験と同一に定めた。

(5)測定方法

 試料の適合状態を測定する前に,歯頸部ショルダーリングと頭部キャップを取り外した

原型金型に鋳造冠を静かにそう入したのち,200gの荷重を30秒間加えた。そして,日本光学社製万能透影機を用いて鋳造冠下縁と原型金型のショルダー部との間隙を1試料につき90

度間隔ごとに測定した。これらの各測定値の平均値からショルダー・リング幅を差し引きμm単位で算出した数値をデータとした。鋳造冠の適合状態を考える場合,単純な膨縮のみならず,変形も問題となる。本実験ではその適合状態を原型金型のショルダーリングと鋳造冠の下縁とのショルダー間隙量が減少した場合,見かけ上膨張として正の値,増加した場合,見かけ上収縮として負の値で示した。これらの測定値から膨縮率を次式によって求めた。

膨縮率(%)=T×a×100

b×1000

ただし T:測定値

    a:原型金型のテーパ(1/10

    b:原型金型の基底部直径(10mm

3.1.2. 実験結果

 以上述べた方法で算出された値を表5に示した。これらの測定値のR管理限界を求めて等分散の検定を行い,等分散していることを確かめ,(以下,一連の実験でも同様である)

分散分析を行った。表6にその結果を示した。

 交互作用効果B×Dおよび繰り返しRは誤差にプールして新たに不偏分散Veを算出し,各因子に対してF検定を行った。

 この結果,B:アスベストライニング,A:緩衝帯の長さ,D:緩衝帯の距離,の各主効果およびB×Aの交互作用効果が信頼限界99%で有意となった。

 しかし,E:緩衝帯の厚さの主効果,さらにはB×DB×Eの交互作用効果には有意差が認められなかった。

 寄与率はアスベストライニングの効果が全体の80.6%,緩衝帯の長さは12.0%となり,緩衝帯の距離については1.0%とかなり低い割合であった。

 これら有意となった各因子について横軸に因子,縦軸に膨縮率をとってグラフ化すると,図15,図16のようになる。図中○●▲は平均値を示し,縦線は95%信頼区間を示す。

1)アスベストライニングと緩衝帯の長さとの関係(15図)

 パターン歯頸部を中心に10mm,パターン中央を中心に20mm,さらにパターン歯頸部を中心に30mmと緩衝帯の長さを延長するにしたがい,鋳造体は膨張傾向を示した。緩衝帯10mm20mmの間では各水準で有意差は認められず,30mmではアスベストライニングがなくとも−0.14%とかなり収縮量が少なくなったが鋳造体は膨張に至らなかった。

 アスベストライニング1枚の場合,全体的に膨張した鋳造体が得られ,緩衝帯の長さが10mm0.10%,20mm0.17%,さらに30mmでは0.44%とアスベストライニングのない場合と同様な膨張パターンを示して30mmで大きく膨張した。

 アスベストライニング2枚の場合,緩衝帯10mm0.36%,20mm0.38%,さらに30mmでは0.50%とその長さを延長することによりわずかに膨張傾向を示すが,その水準間で有意差は認められなかった。また,アスベスト1枚と2枚のライニングの差を見ると,緩衝帯の長さが10mm20mmではアスベストライニング2枚の方が明らかに膨張傾向を示し有意差が認められたが,30mmのときは認められなかった。

2)緩衝帯の距離(図16

 ワックス・リング,つまり緩衝帯を5mm,7mm,9mmとワックス・パターンより遠くに設定するにしたがい,0.12%,0.07%,0.01%と直線的に膨張率は減少を示した。しかし,各水準間では有意差が認められなかった。

3.2. リン酸塩系埋没材使用の場合

3.2.1. 実験方法および実験材料

1)因子と水準

 本実験では表7に示すようにリン酸塩系埋没材の動態に大きく影響をおよぼすと思われる因子B:アスベストライニング(なし,0.8mm 2枚,リングレス),因子F:鋳造リングの大きさ(内径46mm35mm30mm),因子G:緩衝帯(なし,あり)の各因子と水準を定め,これを三元配置,2回繰り返しにて検討した。

2)実験材料

 本実験に使用したリン酸塩系埋没材はG-C社製セラベスト(BatchNo.粉:EJ 6.6:

AX19)である。他の器具材料は前記実験と同様とした。

a)ワックス・パターン製作および寸法精度測定用金型

 前記クリストバライト埋没材における実験に用いたフルキャストクラウン型原型金型(図8-a,図9)を使用した。

b)実験用鋳造リング

 鋳造リングはステンレス製で内径46mm35mm30mmの3種とし,高さは50mm,厚さ1mmに統一した。このリング側壁に緩衝帯を設定する基準とするため,リング上端から13mmの位置に3カ所,2.5mmの小孔を付与した。

3)試料の製作

a)ワックス・パターン

 ワックス・パターンの製作方法は,前記のクリストバライト埋没材における実験方法と同様である。

b)スプルー線の植立

 予備実験中,Ni-Cr合金の鋳造で種々な鋳造欠陥がみられた。そのため,本実験では図17に示すように,直径2.5mmのスプルー線をパターン隅角部の肉厚部に植立し,直径1.0mmのベント(a),直径6mmの湯だまり(b)の付与により鋳造欠陥を防止した。図18はスプルー線の植立状態の模型図である。

c)埋没

 図18に示したようにリング中央に位置して植立したワックス・パターンを,各実験条件にしたがって埋没した。図19の上はアスベスト2枚(1.6mm)ライニングした鋳造リングにパターンから5mmの位置で歯頸部を中心に10mm幅,長さ1.5mmのワックス・リングを設定した試料の斜め上面観である。このアスベスト・リボンの表面処理はシリコーン・オイル浸漬法を用いた。

 リングレス法の場合,図19の下のように鋳造リング側壁にパラフィン・ワックス1枚をライニングし,リン酸塩系埋没材の硬化反応熱が充分発現する練和後10分以内で鋳造リングを除去した。埋没後はその試料を密封した容器に3〜12時間放置し,ワックス焼却に移った。

 セラべストの混液比はメーカ指示の0.24とした。本実験の練和条件は手練和15秒間,さらにウィップ・ミックス社製真空練和器にて45秒間真空練和した。なお埋没操作は大気中で行った。

d)ワックスの焼却および鋳造

 ワックスの焼却は90分で800℃まで上昇させ,その温度で30分間係留した。鋳造用合金は,市販鋳造冠用Ni-Cr合金の中から三金工業社製サンコリウムU.S.LotNo F 60046)を用いた。また本実験に使用した高周波鋳造機(ユニーク光電社製テクニトロン,モデルURH-703)は鋳込温度の設定ができないため,合金量,合金のるつぼ内の位置を規定した上で加熱開始から一定時間後に鋳造を行った。

 鋳造後,室温まで放冷した鋳造体を注意深く取り出して,冠内面の埋没材を大まかに除去したのち,50%水酸化ナトリウム沸騰溶液中で30分間埋没材の溶解および酸化膜の除去を行った。そして超音波洗浄を行い,測定に移った。 

4)測定方法

 試料の測定方法およびデータの算出方法は前記のクリストバライト埋没材を用いた実験と同様である。

 3.2.2. 実験結果

 本実験の測定値を表8に示す。これらの値を分散分析すると表9のようになる。この結果,因子B:アスベストライニング,因子C:緩衝帯の各主効果およびB×Gの交互作用効果が99%有意となった。しかし,因子F:鋳造リングの大きさによる影響は認められなかった。

 また,その寄与率をみるとアスベストライニングの因子が全体の86%を占めた。

 これら有意となった各因子について横軸に因子,縦軸に膨縮率をとると図20のグラフとなる。

1)アスベストライニングと緩衝帯との関係(図20

 本実験では全体的に収縮傾向を示し,膨張した鋳造体は得られなかった。

 アスベストライニングのない場合は−0.72%と大きく収縮した鋳造体となるが,緩衝帯を設定することで−0.61%となった。

 アスベスト2枚ライニングした場合は急激な収縮率の減少が認められ,緩衝帯のないときで−0.12%,緩衝帯を設定したときは−0.25%を示した。つまり,緩衝帯の設定で,アスベストライニングのない場合とは逆に,緩衝帯のないときより収縮傾向を示した。

 また,リングレス法では緩衝帯のない場合,−0.04%と膨張率を示し,アスベスト2枚ライニングしたときより小さな値となるが両者間には有意差は認められなかった。しかし,

緩衝帯を設定すると−0.22%を示してアスベスト2枚ライニングと緩衝帯を併用したときとほぼ同様な値となり,緩衝帯のないときより明らかに収縮傾向を示した。

4.MODインレーの寸法精度におよぼす緩衝帯の影響

4.1. 原型金型における寸法精度

4.1.1. 緩衝帯について

1)実験材料と実験方法

(1)因子と水準

 本実験では表10に示したように一連の実験結果より鋳造修復物の寸法精度に大きく影響を与える因子B:アスベストライニング(なし,0.8mm 1枚,0.8mm 2枚)と因子G:緩衝帯(なし,あり)の各因子を採り上げ,これらについて二元配置,2回繰り返しにて検討した。

(2)実験材料

 本実験にはG-C社製クリストバライト埋没材(BatchNo.  AC27)を使用し,他の実験材料は前記一連の実験と同様である。また,本実験の鋳造リングはMODインレー・パターンの大きさを考慮して,内径35mm,高さ40mm,厚さ1.0mmのものを使用した。

a)ワックス・パターン製作および寸法精度測定用金型

 本実験に用いたMODインレー原型金型を図2122に示す。この金型は図23のように咬合面部2.5mmの部分(以下,頭部キャップと呼ぶ)と外枠が取りはずせるようになっている。このことにより鋳造体の近遠心的な膨縮変化のみについて,すなわち内側性因子を除去したときの寸法変化と外枠および頭部キャップを除去しない通常の原型金型に対する寸法変化について比較検討が可能になるように工夫されている。

b)緩衝帯

 緩衝帯はパラフィンワックス(厚さ1.5mm)にて前記一連の実験と同様にパターン周囲にリング状に製作した。本実験では,図24に示すように,パターンから4.8mm離れた位置でパターン歯頸部を中心に上下5mm,計10mm幅に設定した。この緩衝帯となるワックス・リングを鋳造リング内に設定する方法は前記実験と同様である。

(3)試料の製作

a)ワックス・パターン

 ワックス・パターンは経時的に起こるパターンの内部応力の開放などに起因する収縮や変形を防止し,精度の良いワックス・パターンを製作するために軟化圧接法182728)にて製作した。そのためインレー・ワックスおよび原型金型は約50℃に保たれた江藤社製恒温恒湿器内で常に保温した。ワックス・パターンは油圧プレスを用いて軟化したワックスを原型金型上面より1000lbs/cm2の荷重で圧入して製作した2728)。その後,パターン咬合面中央部に直径2.5mmのスプルー線を植立した。

b)その他の試料製作過程

 ワックス・パターンの製作以降の埋没,ワックス焼却,鋳造の各過程は前記のクリストバライト埋没材を用いたフルキャストクラウンの寸法精度の実験方法と同様である。

 なお,埋没材の混水比はメーカー指示範囲内の0.32とした。

(4)測定方法

 完成した試料を原型金型に注意深くそう入し,200gの荷重を30秒間加えたのち,近遠心側の脚部歯頸部の浮き上がり量を万能投影機にて測定した。そのとき,脚部を近遠心的に3等分して頬側寄りと舌側寄りの2ヵ所を測定し,その平均値を算出した。そして,さらにその近心側と遠心側脚部の値の平均値をその浮き上がり量とした。

 一方,試料近遠心方向(外側性部分)のみの膨縮変化を求める場合,外枠と頭部キャップを除去した原型金型に鋳造体を適合させて同様に測定し,近遠心脚部歯頸部の浮き上がり量の平均値から原型金型の外枠のショルダー幅を差し引いた値をその浮き上がり量とした。

 これらの測定値から,各試料の原型金型に対する膨縮率は次式により求めた。

 試料の膨縮率(%)=2αtan θ×100

d2×1000

 α:測定値(近遠心側脚部の浮き上がり量の平均値)

 θ:テ−パ角(2.86°)

 d2:基準線A地点の支台直径(9.59mm

 したがって

 膨縮率(%)=9.992α=1.042α

9.59×1000

2)実験結果

 以上述べた方法で算出された試料の測定値を表11に示した。これらの値を分散分析すると表12のようになる。この結果,原型金型の外枠と頭部キャップを除去しない場合(表12−1)では,因子B:アスベストライニングの主効果およびB×Gの交互作用効果が信頼限界99%で有意となった。しかし,因子G:緩衝帯の主効果は有意とならなかった。

 原型金型の外枠と頭部キャップを除去した場合(表12−2),因子B:アスベストライニング,因子G:緩衝帯の各主効果およびB×Gの交互作用効果が信頼限界99%有意となった。

 これら有意となった各因子について横軸に因子,縦軸に防縮率をとってグラフ化すると図25のグラフとなる。図中の○●は平均値を示し,縦線は95%信頼区間を示す。

(1)原型金型の外枠および頭部キャップを除去しない場合(図25−1)

 緩衝帯なしではアスベストライニングがないとき−0.76%と大きな収縮率を示したが,アスベスト1枚(0.8mm)ライニングすると−0.12%と大きく収縮が減少し,本実験中最良の適合を示した。しかし,アスベスト2枚(1.6mm)ライニングすると−0.61%と,逆に大きく収縮率が増加した。

 一方,緩衝帯を設定すると,アスベストライニングがないとき−0.31%と大きく収縮率が減少するが,アスベストライニング1枚さらに2枚と併用することにより収縮率が増加した。

 つぎに,各水準間における緩衝帯の効果について見ると,アスベストライニングのないとき緩衝帯により−0.31%と大きく収縮率が減少し,緩衝帯のないときとの間に明らかに有意差が認められた。

 また,アスベスト1枚ライニングしたとき,緩衝帯のあるときはないときより明らかに鋳造体の浮き上がりを生じ,その間に有意差が認められた。さらにアスベスト2枚ライニングした状態では,緩衝帯があるときはないときよりわずかに収縮傾向を示すものの,有意差は認められなかった。

(2)原型金型の外枠および頭部キャップを除去した場合(図25−2)

 緩衝帯のない場合アスベストライニングのないときは−0.64%と大きく収縮したが,アスベスト1枚ライニングすると0.40%と急激に膨張傾向となった。さらに,アスベスト2枚ライニングしたときは0.67%となり,1枚ライニングのときよりやや大きい膨張率を示した。

 一方,緩衝帯の設定により,アスベストライニングがなくても−0.15%を示し,収縮率の減少が認められた。また,緩衝帯とアスベスト1枚ライニングとの併用では0.67%と大きく膨張傾向を示したが,2枚ライニングとの併用では0.66%とほぼ同様な値を示し,両者の間に有意差はなかった。

 アスベスト1枚ライニングした場合,緩衝帯のないときとあるときの間に有意差を認め,緩衝帯の設定により明らかに膨張傾向を示した。しかし,アスベスト2枚ライニングした場合,緩衝帯のあるときとないときの間には有意差はなかった。

4.1.2. 一部緩衝帯について

1)実験材料と実験方法

(1)因子と水準

 本実験では表13に示すように,鋳造修復物の適合性に大きく寄与すると思われる因子B:アスベストライニング(なし,0.8mm 1枚),さらに鋳造リング内パターン周囲の一部緩衝帯の長さを変化させる因子H:一部緩衝帯の長さ(なし,パターン歯頸部を中心に10mm幅,20mm幅,30mm幅)の因子を水準とし,これらの要因について二元配置,2回繰り返しにて検討した。

(2)実験材料

 本実験ではG-C社製クリストバライト埋没材(BatchNoFO13),G-C社製ブルー・インレー・ワックス(BatchNoFY8)を使用した。鋳造リングは内径35mm,高さ50mm,厚さ1mmのものを用いた。

a)ワックス・パターン製作および寸法精度測定用金型(図212223

 本実験では前記の緩衝帯における実験に使用したMODインレー型原型金型を用い,ワックス・パターンの製作と試料の測定を行った。

b)一部緩衝帯

 MODインレー・パターンの外側部分に適用する一部緩衝帯(ワックス帯)は,最初にG-C社製パラフィン・ワックスにて各条件のワックス・リングを製作し,図26に示すようにワックス・リングを4分割した。この一部緩衝帯はパターンから4.8mmの位置で前記の緩衝帯における実験と同様に設定した(図27)。

(3)試料の製作

 ワックス・パターンの製作,埋没操作,ワックス焼却,鋳造の各過程は前記の緩衝帯における実験方法と同様である。

 ワックス・パターンと一部緩衝帯の長さとの関係は図28に示した。

 埋没材の混水比はメーカ指示範囲の0.32とした。

(4)測定方法

 本実験の測定方法は前記の緩衝帯での実験と同様である。すなわち,原型金型の外枠および頭部キャップを除去しない場合とこれを除去した場合とに分け,試料の原型金型に対する浮き上がり量を測定し,その膨縮率を求めた。

2)実験結果

 表14に本実験の測定値を示した。これらの値を分散分析すると表15のようになる。この結果,原型金型の外枠と頭部キャップを除去しない場合(表15−1),因子B:アスベストライニング,因子H:緩衝帯の長さの各主効果およびB×Hの交互作用効果が99%有意となった。

 一方,原型金型の外枠と頭部キャップを除去した場合(表15−2),因子B:アスベストライニング,因子H:緩衝帯の長さの各主効果およびB×Hの交互作用効果が信頼限界99%有意となった。

 これら有意となった各因子について横軸に因子,縦軸に膨縮率をとってグラフ化すると,図29のグラフとなる。図中の○●は平均値を示し,縦線は95%信頼区間を示す。

(1)原型金型の外枠および頭部キャップを除去しない場合(図29−1)

 アスベストライニングのないとき,−0.71%と大きな収縮率を示したが,パターン歯頸部を中心に10mm幅の一部緩衝帯を設定すると急激に収縮率が減少して−0.17%となった。さらに,一部緩衝帯の長さを20mm30mmと延長したとき,−0.07%,−0.06%と大きく収縮率が減少した。また,この20mm30mmの間には有意差はなかった。

 一方,アスベスト1枚ライニングした場合,10mmの一部緩衝帯との併用で−0.05%の収縮率になった。このとき,一部緩衝帯のないときと10mmの一部緩衝帯の間には有意差が認められなかったが,一部緩衝帯を20mmに延長すると−0.10%と収縮率がやや増加し,さらに30mmでは−0.38%の大きな収縮率を示した。

(2)原型金型の外枠および頭部キャップを除去した場合(図29−2)

 アスベストライニングがないとき−0.54%となり,大きな収縮率を示した。しかし,パターン歯頸部を中心に10mm幅に一部緩衝帯を設定すると膨張率0.05%を示し,さらに,20mmに延長すると0.40%と大きな膨張率を示した。30mmの場合は膨張率0.37%となり,20mmのときにくらべて膨張率は小さいが,その差は認められなかった。

 一方,アスベスト1枚ライニングすることで全体的に大きく膨張傾向を示し,一部緩衝帯がなくとも0.50%と大きく膨張した。また,10mmの一部緩衝帯との併用では0.65%となり,一部緩衝帯のないときとの間に有意差が認められた。さらに,20mmでは0.70%と膨張傾向となるが,30mmでは20mmにくらべて,やや収縮傾向を示した。しかし,この場合緩衝帯の長さの変化による差は認められなかった。

4.2. 印象材による適合試験

 本実験は4.1.1.と4.1.2.の実験における試料の原型金型に対する適合性を印象材を用いて検討したものである。

4.2.1. 実験材料と実験方法

1)試料の製作

 本実験の印象材による適合試験では,G-C社製ビニール・シリコン印象材(エグザフレックス)のインジェクションタイプ(BatchNo011101)を用いた。このベースとキャタリストの割合は重量比で1:1に定め,これを30秒以内で練和完了し,シリコーン・オイルを噴霧した原型金型上に練和泥を盛り,その上に試料を静かにそう入した。そして,試料上面から手圧にて強圧を加えて余剰の印象材を排除したのち,500gの静荷重を加えたまま1時間以上放置した。硬化後,原型金型から除去した試料内面にG-C社製ブラック・シリコーン印象材(BatchNo040211)で裏打ちした。この印象材の硬化後,鋳造体内面からブラック・シリコーン印象材とビニール・シリコーン印象材とを一塊として除去し,本実験の試料とした。

2)測定方法

 以上,述べた方法で製作した試料の咬合面部を頬舌的に3等分し,さらに近遠心脚部を水平的に3等分して各測定試料とした。そして,図30に示す試料各部位のビニール・シリコーン印象材の厚さをビジョン社製実体顕微鏡TSM-ISマイクロスコープにて実測および写真撮影を行った。

4.2.2. 実験結果

 試料は便宜的に咬合面窩底,咬合面側壁,側壁,歯肉側の5ヵ所に分けてその各部位を3等分した2ヵ所を測定点と定め,前記の方法により計測を行った。そのおのおのの部位における測定値の平均値を求めてまとめた結果を表1617に示した。

 これらの各実験条件における測定値の平均値を各部位ごとにプロットしたのが図3132である。図3334にビジョン社製実体顕微鏡,TSM-ISマイクロスコープの附属アダプタに撮影装置(キヤノンAV-1)を接続して撮影した各試料のうちから,咬合面中央断面と近遠心脚部中央の水平断面を示した。これにより,咬合面側壁,咬合面窩底,側壁,軸側壁の印象材の厚さ厚さの変化を観察できる。

1)緩衝帯について(表16,図3133

 アスベストライニングのない場合,咬合面窩底566μm,歯肉側で522μmと印象材の層が非常に厚くなった。MODインレー内側性部分の咬合面側壁187μm,側壁で127μmの厚い層が認められるが,外側性部分の軸側壁では35μmと最も薄い層を示した(図33-1,上)。

 しかし,緩衝帯を設定するとかなり浮き上がり量の減少が認められるが,咬合面窩底で295μm側壁67μmとまだかなり厚い層を示した(図33-1,下)。

 アスベスト1枚ライニングした場合,鋳造体の浮き上がり量が大きく減少し,咬合面窩底で84μm,歯肉側で66μm,咬合面側壁で66μm,側壁で53μm,軸側壁で54μmと各部位でほぼ均一な印象材の厚みが認められた(図33-2,下)。

 しかし,緩衝帯を併用することでアスベスト1枚のみのときにくらべて浮き上がりが生じ,咬合面窩底で238μm,歯肉側で201μmとなった。また,軸側壁では76μmとかなり厚くなっているが,内側性部分の咬合面側壁は82μm,側壁では49μm,と薄い層を認めた。(図33-2,下)。

 アスベスト2枚ライニングした場合は大きく浮き上がり,咬合面窩底で454μm,歯肉側で389μmと非常に厚くなった。また,内側性部分の咬合面側壁で61μm,側壁で68μmとかなり薄い層となるが,外側性部分の軸側壁では94μmと厚くなった(図33-3,上)。

 さらに,緩衝帯を併用した場合も同様に大きく浮き上がり,咬合面窩底で544μmの歯肉側では483μmとなった。内側性部分の咬合面側壁では45μmの非常に薄い層となるが,外側性部分の軸側壁では95μmの厚い層を認めた(図33-3,下)。

2)一部緩衝帯について(表17,図3234

 アスベストライニングのない場合,咬合面窩底で521μm,歯肉側で481μmの厚い層となり,同様に内側性部分の咬合面側壁231μm,側壁でも139μmと厚くなった。しかし,外側性部分の軸側壁では77μmと非常に薄い層を認めた。

 ここで一部緩衝帯を10mmに設定すると急激に浮き上がり量が減少し,咬合面窩底で149μm,歯肉側で122μmとなった。軸側壁では78μmと薄くなるが咬合面側壁で188μm,側壁で121μmと厚い層が認められた。

 一部緩衝帯を20mmに設定すると咬合面窩底では116μm,歯肉側では102μmとなるが咬合面側壁で181μm,側壁で139μmの厚い層となった。軸側壁では92μmと一部緩衝帯10mmの場合より厚くなった(図34-1,上)。

 さらに,一部緩衝帯を30mmに延長することで咬合面窩底で103μm,歯肉側で76μmの厚さとなり,大きく浮き上がり量が減少した。咬合面側壁で183μm,側壁では142μm,また,軸側壁でも95μmと厚くなった。

 このようにアスベストライニングがなくても一部緩衝帯の長さを延長することにより鋳造体の浮き上がり量が減少した。それにつれて外側性部分の軸側壁では印象材の層が厚くなった。一方,内側性部分の咬合面側壁,側壁ではほぼ均一な印象材の厚い層が認められた。

 アスベスト1枚ライニングした場合,咬合面窩底で87μm,咬合面側壁で58μm,側壁で64μm,軸側壁で69μmと各部位で薄い均一な印象材の層が認められた(図34-1,下)。

 さらに,一部緩衝帯を10mmに設定することで浮き上がり量が最小となり,咬合面窩底で75μm,歯肉側で69μmの薄い層が認められた。また,咬合面側壁で90μm,側壁で80μm,軸側壁で93μmとなり一部緩衝帯のないときと同様な膨縮パターンを示すが,軸側壁の印象材の層が厚くなる傾向にあった。(図34-2,上)。

 一部緩衝帯20mmでは咬合面窩底で158μm,歯肉側で162μmと大きな浮き上がりを示した。内側性部分の咬合面側壁で75μm,側壁で78μmであるが,軸側壁の外側性部分では92μmの厚い層となった。(図34-2,下)。

 さらに,一部緩衝帯30mmでは咬合面窩底で351μm,歯肉側で335μmと同様に大きな浮き上がりを生じた。また,咬合面側壁で92μmとなり,軸側壁では105μmとなった。

5.考察

 鋳造修復物の支台歯に対する適合の良否は,二次カリエス,歯周疾患の防止の面から第1にチェックしなければならないことである。

 現在までに鋳造修復物の寸法精度に関する研究は数多く行われており,ある程度の結論は得られている。しかし,鋳造修復物の製作過程はきわめて多くの複雑な過程に分れているために鋳造鋳造修復物の適合性に影響する多くの因子が互いに交絡しており,そのために解決出来ない色々の問題が存在する。合金の鋳造収縮補正方法もそのうちの1つである。この鋳造収縮補正方法には主に硬化膨張を利用する方法7-9)と主に加熱膨張を利用する方法1415)とに分れるが,いずれの方法を用いても鋳造リング内のワックス・パターンおよびモールド・キャビティは均一な膨張を生じない。そのため,鋳造修復物は常に変形を伴って補正されていることになる。鋳造リング内埋没材の動態を掌握しておくことは変形のない,適合の良い鋳造修復物を製作するために重要なことである。

 本研究はこのリング内埋没材がどのように実際のモールド・キャビティに作用して各種鋳造修復物の寸法精度に影響をおよぼしているか,さらにはこのリング内埋没材の動態をどのようにコントロールしたら適合の良い鋳造修復物が得られるかということを明らかにするために行ったものである。

5.1. 封鎖型リングの影響

 以前,著者らは鋳造リングの上下開放端を封鎖した封鎖型リングを用いてリング内埋没材の動態をフルキャストクラウンの膨縮量から検討した26)。しかし,リング内埋没材の動態がこの封鎖型リングにより実際にどのように影響を受けているのかは明らかにすることができなかった。そこで本実験では標点を付与した板状パターンを用いてその実験を単純化して封鎖型リングの効果を明確にし,リング内埋没材の動態を新らたに検討した。

 ここで,以前の著者らの報告をもとに,今回の板状パターンにおける実験結果について考察した。

1)実験条件について

 日常臨床では,単独キャストクラウンの場合は内径30mmの既製リングが多く使用されるが,本実験ではそれよりかなり大きい著者らの実験で使用した大リング(内径46mm)を用いた。これは大リングほど鋳造リング側壁の膨張率とリング内埋没材の膨張率の違いが大きく現われ,モールド・キャビティに作用する鋳造リング壁の抑制力が大きくなる26)からであり,リング内埋没材の動態を大きな現象として検討しようとしたためである。

 この封鎖型リングとすべく設定した上下封鎖板はリング側壁とネジで固定できるようになっているので確実にリング内埋没材の動態を抑制できるが,リング側壁にネジ切りしたため通常のリングよりリング壁の厚さが多少厚く(2mm)なっている。

 板状パターンでリング内埋没材の動態を検討しようとする試みは以前から行われており,パターン表面の指標設定には種々な方法がある1820-2325)。上条23)はV字溝を付与した板状パターンを,また永沢ら25)は網目を彫刻した板状パターンを用いている。本実験ではビッカースかたさ試験機によるダイヤモンド圧子を利用して標点を付与する中村ら2021)の方法を用いた。この方法では測定試料表面に凸型に頂角135°の角錐が付与されるので測定時に標点が容易に定まる利点を有している。

 他の実験条件は以前の著者ら26)の実験と同一とし,比較検討できるようにした。

2)実験結果について

 アスベストライニングのない場合,開放型リングでは埋没材の膨張力が鋳造リング壁に抑制されてモールド・キャビティに反作用する力となり11),リング側壁方向では全体にほぼ−0.7%収縮し,リング上下開放端方向では全体にほぼ1.0%と大きく膨張変形を生じた。このことは多数の報告と一致する18-2331)。真坂はこの現象をクリストバライト埋没材の結合力の弱さにあるとし,リング側壁に抑制された埋没材の膨張がそのままの状態を維持できずに開放端方向へ粘性流動を起こすためである22)とした。

 このような原因でフルキャストクラウンは上下方向には膨張したものの,リング側壁方向では収縮する結果,マスターモデル(臨床では支台歯)にもどして見ると支台歯とフルキャストクラウンのマージン間に大きな浮き上がりを持つ不適合なフルキャストクラウンとなる。

 一方,封鎖型リングではリング側壁方向で開放型リングとほぼ同じ値を示すが,リング上下方向では0.04%となり,埋没材の動態が明らかに抑制されていることが明らかとなった。

 アスベスト1枚ライニングした場合,埋没材の膨張力に対する鋳造リング壁の抑制力が緩和して開放型リングの側壁方向では全体的にほとんど膨縮を示さなかったが,封鎖型リングでは開放型リングより膨張傾向を示して0.15%の膨張となった。これはリング側壁方向の膨張が開放型リングでは上下開放端方向へ1部開放されるために封鎖型リングより収縮傾向を示したものと思われる。また,開放型リングではリング側壁の抑制力が緩和することで,リング上下開放端方向の膨張量がアスベストライニングのないときより減少傾向を示している。

 このようなことから,鋳造リング内のクリストバライト埋没材は1つの弱い結合体であり,その膨張力はある外力に対して容易に抑制を受ける32-34)ことが推察される。

 アスベスト1枚ライニングした場合,封鎖型リングではリング上下方向への埋没材の動態が抑制され,図7に示すようにリング側壁と上下方向への埋没材の膨張率がほぼ均一となり,パターン原型に近い形態を示した。これをフルキャストクラウンの寸法精度で見ると鋳造リングの形態にかかわらず全体的に収縮したフルキャストクラウンとなるが,封鎖型リングと開放型型リングとを比較した場合には開放型リングで製作したフルキャストクラウンの方が多少収縮して浮き上がり量が大きかった26)。

 アスベスト2枚ライニングした場合,開放型リングおよび封鎖型リングともリング側壁と上下開放端方向でパターン原寸より過膨張し,ほぼ均一な膨張傾向を示した。

 このように,封鎖型リングではアスベスト1枚ライニングするとリング側壁と上下方向ではほぼ均一な膨張となるが,開放型リングではアスベスト2枚でなければ均一な膨張が得られなかった。

5.2. フルキャストクラウンの寸法精度におよぼす緩衝帯の影響

5.2.1. クリストバライト埋没材使用の場合

 埋没材の膨張力に対する鋳造リング壁(外枠)の抑制力がモールド・キャビティおよび鋳造修復物の寸法精度におよぼす影響に関しては数多くの報告がある151619-2635-42)。以前,著者ら26)はモールド・キャビティとリング壁との間に,ある一定の空洞を設定する緩衝帯が鋳造リング壁の抑制力を緩和することを報告している。

 そこで,本実験では,この緩衝帯の長さ,厚さ,モールド・キャビティからの距離,などを鋳造リング内で色々に変化させることでフルキャストクラウンの寸法精度におよぼす鋳造リング内埋没材の動態について検討を行った。

1)実験条件について

 緩衝帯は第1にモールド・キャビティ内埋没材とその周囲埋没材との拮抗作用を最も強く受けると思われるモールド・キャビティの歯頸部を中心に上下10mm幅に設定し,つぎにこの歯頸部を含めたモールド・キャビティ全体を包むようにモールド・キャビティの中央を中心に上下20mm幅に設定したものおよびこの緩衝帯を高さ50mmの鋳造リング内で可能な限り長く延長して,モールド・キャビティの歯頸部を中心に上下30mm幅に設定したものの三種類の条件とした。

 予備実験中,緩衝帯とリング上端との間に5mm以上の埋没材の厚みがないときや緩衝帯をモールド・キャビティに5mm以下に近ずけたときは鋳造圧でモールド・キャビティは破壊した。このようなことからも,モールド・キャビティ周囲には鋳造圧に耐えうる,ある一定の埋没材の厚み(5mm以上)が必要である。

 2)アスベストライニングと緩衝帯の長さとの関係

 アスベストライニングのない場合,緩衝帯をモールド・キャビティ歯頸部やモールド・キャビティを中心とした部分に限定して設定したときより,高さ50mmの鋳造リング内で可能な限り長く設定(モールド・キャビティ歯頸部を中心に30mm幅)することで鋳造体の収縮量が著しく減少した。

 大野ら3536)はアスベストライニングの幅とリングとの相対的な関係を,埋没材中に形成された空洞に水銀を注入して埋没材の硬化膨張による空洞の容積変化から検討し,リング全長をライニングした場合,リング一端のみをライニングした場合,さらにリングの両端をライニングしない場合の順に空洞の膨張は小さくなると報告している。また,Palmer37)はリング上下端約3mmの部分を除去してアスベストライニングしたときと,リング壁の全てにライニングしたときの硬化膨張における立方体パターンの寸法変化について比較検討した結果,リング開放端方向への膨張変形を防止する意味から,リング上下端約3mmの部分を除去してアスベストライニングする方法を推奨した。

 このように,ワックスパターンより遠い埋没材の動態がそのパターンの寸法精度に大きな影響をおよぼすことが指摘されているが,埋没材の加熱膨張をも含めて検討した本実験結果においても同様な現象が確認できた。

 本実験のようにモールド・キャビティ周囲に,ある一定の空洞を設定してリング壁の抑制力を緩衝する方法は一種のリングレス法と考えられる。しかし,モールド・キャビティ周囲を全域にわたって空洞にすることはクリストバライト埋没材自体の弱さのため不可能であり,またその空洞とならない部分の埋没材がリング壁に抑制されると考えられ,そのため,アスベストライニングのない場合,緩衝帯を長く延長してできるだけリングレス法に近ずけても鋳造体は膨張傾向を示さなかったものと思われる。このことは,アスベストライニングがないときは硬化膨張が鋳造リング壁に抑制されて発現せず31),リング内埋没材の総膨張量が不足したことにも原因があるものと思われる。

 以上のことから,合金の鋳造収縮は埋没材の加熱膨張のみでは十分には補正できないものと考える。

 アスベスト1枚(0.8mm)ライニングすると,鋳造体は全体的に膨張傾向となった。これはアスベストライニングを行うことで硬化および加熱膨張が大きく発現して埋没材の総膨張量が大きくなったためである。本実験ではアスベストリボンの表面処理としてシリコーン浸漬法を用いているが,完全に水分の授受を防止できたかは疑問であり,アスベストライニングの効果としてアスベストライニングのクッション作用に多少なりとも埋没材の吸水膨張の影響も加味して考えなければならない。

 つぎに,アスベスト1枚(0.8mm)ライニングしたときの緩衝帯の長さの変化による影響を見ると,アスベストライニングのないときとほぼ同様な膨縮パターンを示した。このことから,内径46mmの鋳造リングにアスベスト1枚(0.8mm)ライニングしても鋳造リング壁の影響がかなりモールド・キャビティに作用していることが推察される。

 アスベスト2枚(1.6mm)ライニングの下では,緩衝帯の長さを延長しても著しい膨張傾向は示さず,その各水準間では有意差が認められなかった。さらにはアスベスト1枚ライニングと緩衝帯30mmを併用したときとの間にも有意差は認められなかった。

 河野ら38)は内径30mmの鋳造リングに0.4mmのアスベストリボンを3枚以上ライニングすると埋没材の膨張抑制はほぼ完全に除かれ,5枚,6枚と増加してライニングしてもその影響は認められなかったと報告している。塩路ら3940)は小リング(内径24mm)および大リング(40mm)におけるアスベストライニングの適正な厚さについて検討し,小リングでは3枚(1.2mm以上),大リングでは5枚(2.0mm)以上あれば,ほぼ完全にリング壁の抑制力が除去できると報告している。

 本実験においては内径46mmの鋳造リングにアスベスト2枚(1.6mm)ライニングすることで,リング内埋没材の最大膨張を示したことが推察される。

3)緩衝帯の距離

 緩衝帯を9mm,7mm,5mmとモールド・キャビティに接近させて設定すると,鋳造体は膨張傾向を示した。

 山根ら4142)は鋳造収縮率におよぼすアスベストリボンの処理,リング径の影響について検討し,小リングの方がアスベスト1枚あたりの埋没材の肉厚が薄くなり,大リングにくらべて埋没材の膨張に対するリングの抑制が減少すると報告している。つまり,モールド・キャビティ周囲の埋没材の厚みが厚いほど,モールド・キャビティにおよぼすリング壁の抑制が強く発現することが指摘されている。

 しかし,本実験ではそのような傾向が認められるものの,各水準間では有意差が認められなかった。これは緩衝帯周囲の埋没材の動態がその鋳造体の寸法精度に大きく影響しているためであろう。

4)緩衝帯の厚さ

 緩衝帯の厚さの因子については有意とならなかったことから,厚さ0.5mmの空洞をモールド・キャビティ周囲に設定できれば埋没材の膨張力に対するリング壁の抑制力が十分に緩衝できるものと思われる。

5.2.2. リン酸塩系埋没使用の場合

 近年,非貴金属,とくにNi-Cr合金にて鋳造修復物を製作することが試みられ,臨床にも応用されるようになってきた43)。

 しかし,この種の合金は鋳造収縮が大きく,その補正がむずかしいといわれている1143)。さらに,合金の溶融点が一般に1300℃前後であるので石膏を結合材としたクリストバライト埋没材は使用不可能であり,とりあつかいのむずかしい高温用埋没材が必要であることにも問題がある。

 そこで,本実験ではNi-Cr合金の合理的な寸法補正を考える一資料とするため,著者がいままで一連の実験で検討してきた緩衝帯をリン酸塩系埋没材に応用してその寸法補正方法としての可能性を追求するとともに,アスベストライニングや鋳造リングの大きさの各因子がフルキャストクラウンの寸法精度におよぼす影響について検討を行った。

1)実験条件について

 予備実験中,Ni-Cr合金の鋳造で種々な鋳造欠陥が認められたが,その原因としてガスの巻き込み,ホットスポット,湯回り不良などが多かった。そこで色々なスプルーイング方法

を試みた結果,斜め埋没により鋳造欠陥が解消できた。このことから,比重の軽い非貴金属合金では,とくに鋳造欠陥の防止において溶湯を流れやすくすることが必要であることが示唆された。

 本実験では斜め埋没の変法としてパターン隅角の肉厚部にスプルー線を植立し,パターン側壁がリング壁と平行になるようにワックス・パターンをクルーシブル・フォーマに植立した。これはワックス・パターン周囲の埋没材の厚みを均一なものとするためである。そして,ワックス・パターンの近くにできるだけ大きい湯だまり44)と凝固促進を目的としたベント45)を付与して鋳造欠陥を防止した。

 Ni-Cr合金に関して林46)は市販Ni-Cr合金の中でNi Cr以外の成分をほとんど含まないサンコリウムU.S.が埋没条件や鋳造器の違い,さらにはオーバー・ヒートの影響を最も受けにくかったと報告している。そのため,本実験ではこの合金を使用した。

 高温鋳造で問題となる1つにモ−ルド・キャビティ内面の埋没材と合金との焼きつき現象があり,そのため冠内面が荒れるとともに,冠内面の埋没材の清掃除去が困難となる。そこで,サンド・ブラスターにより焼きついている埋没材とともに冠内面を一層削り取って清掃を行っているのが一般的であるが,本実験では冠内面をas castの状態に保持するために化学的に冠内面の埋没材を除去することを試みた。この方法には一般的に52%フッ化水素酸が用いられるが,Ni-Cr合金はこのフッ化水素酸溶液に腐食される47)ため,本実験では50%水酸化ナトリウム沸騰溶液中に浸漬48)して埋没材を溶解し,冠内面を清掃除去する方法を用いた。この水酸化ナトリウムは埋没材の主成分であるシリカをゆっくり溶解する。

 SiO2+2NaOHNa2SiO3HO49

 本実験ではこのような化学的効果と同時に沸騰による振動の機械的作用48)による清掃効果を期待したものである。

2)アスベストライニングと緩衝帯の長さとの関係

 アスベストライニングのない場合,鋳造体は大きな収縮量を示すが,アスベスト2枚(1.6mm)ライニングすることで収縮量が著しく減少し,さらにリングレス法では鋳造体の膨縮率をほぼ補正できた。これは埋没材の硬化および加熱膨張が自由に発現するようになるためである。

 林50)によれば,内径30mmのリングで膨張率1.67%の埋没材ではアスベストライニングが2重(0.8mm),3重(1.2mm),およびリングレス法との間には有意差が認められないとしている。本実験では内径46mmのリングで膨張率1.8%程度の埋没材を用いたのであるが,リングレス法とアスベスト2枚(1.6mm)ライニング時との間には有意差が認められなかった。

 以上のことから,アスベスト2枚ライニングすればリングレス法とほぼ同様な効果が得られるものと思われる。しかし,アスベストライニングに伴う吸水膨張によるワックスパターンの変形などの問題,ライニングの煩雑さなどを考慮するとリングレス法が最良の方法であると著者は考える。ただし,このリングレス法を用いるとき,硬化膨張を防げないように工夫することが重要である。

 一方,緩衝帯を設定した場合も緩衝帯のないときとほぼ同様な膨縮パターンを示し,アスベストライニングのないときは緩衝帯の設定で緩衝帯のないときより多少,膨張傾向を示した。しかし,両者の間には有意差は認められなかった。これはリン酸塩系埋没材の加熱膨張がクリストバライト埋没材ほど急激な膨張特性を示さないために鋳造リング壁による加熱膨張の抑制度が少ない51)ことと,さらには鋳型強度の因子が影響しているものと思われる。この鋳型強度は加熱により大きく変化し,クリストバライト埋没材は生型の約2分の1となるが,リン酸塩系埋没材ではクリストバライト埋没材とは逆に約2倍となる52)。そのため,クリストバライト埋没材に認められた粘性流動がこのリン酸塩系埋没材には起こらず,リング壁に抑制された力がモールド・キャビティに大きくは作用していないためと推察される。

 本実験にて緩衝帯をアスベスト2枚ライニングあるいはリングレス法と併用すると両者とも緩衝帯のないときより収縮傾向を示したことから,クリストバライト埋没材に認められた緩衝帯の寸法補正効果がリン酸塩系埋没材では期待できないことがわかった。

 以下,この現象について考察する。図35は本実験に使用したリン酸塩系埋没材,セラベスト(BatchNo.粉:FJ25.4,液:FY 25)の硬化反応熱と硬化膨張率の時間的関係を図示したものである。このリン酸塩系埋没材はクリストバライト埋没材にくらべて硬化膨張が0.9%以上と大きく,加熱膨張の0.9%と同程度を示しており,硬化膨張は練和開始から1030分間で急激に膨張して徐々ではあるが長時間持続する。一方,硬化反応熱は埋没材をリングに注入し,埋没完了してから約10分でピークとなり,50℃以上の温度上昇を示す。これは石川11)の報告とほぼ一致する。

 このように,リング内埋没材が高温になった状態では,緩衝帯とすべく設定したワックス・リングが軟化され,埋没材の膨張力に対しては抵抗力を持たない。しかし,硬化反応熱がピーク時から冷却して室温になるにつれて,軟化されていたワックス・リングも徐々に硬固物となるものと思われる。そのため,その冷却したワックス・リングの抵抗力により,長時間持続する埋没材の自由な硬化膨張がある程度阻害され,埋没材の総膨張量の不足が生じたのではないかと推察される。

 これに対してクリストバライト埋没材の硬化膨張はリン酸塩系埋没材より小さく,しかも急激に発現する加熱膨張に対するリング壁の抑制力が大きいため,硬化膨張のときにワックス・リングにより抑制された力が全体的に打ち消され,緩衝帯の効果が大きく現われたものと思われる。

 しかし,この現象は本実験のみでは明確には説明できない問題であり,さらに追試実験が必要である。

3)鋳造リングの大きさ

 成田53)はリン酸塩系埋没材の容量を33.9cm24.0cm3,10.5cm3と変化させた場合,MODインレーおよびフルキャストクラウンの適合性に差は認められなかったと報告している。

 本実験でも鋳造リングの内径を46mm35mm30mmと変化させてもその影響は認められなかった。これは本実験結果のみでは明確には説明できないが,鋳型強度などの因子が関与しているものと思われる。また,緩衝帯とすべく設定したワックス・リングにより均一に硬化膨張が抑制され,その硬化膨張は加熱膨張と同等かそれ以上であるのでリングの大きさによる差がでてこなかったとも考えられる。

 以上のようにリン酸塩系埋没材では鋳造リングの大きさによる影響は認められないが,鋳造リングがワックス・パターンより極度に大きすぎる場合には通気性が悪くなり鋳造体に対して色々の不利な問題を生ずるため,ワックス・パターンの大きさに応じて適正な大きさの鋳造リングを選択する必要がある。

5.3. MODインレーの寸法精度におよぼす緩衝帯の影響

 MODインレーは周知のように内側性部分と外側性部分の両面を合わせ持つ複雑な鋳造体であり,その寸法補正も困難なものとなる。このようなMODインレーに対して著者はまず第一にモールド・キャビティ周囲にリング状の空洞を設定する前記の緩衝帯を応用してその寸法精度におよぼす影響とアスベストライニングの効果について検討した。さらに,この緩衝帯の変法としてMODインレーの外側性部分のみに部分的な緩衝帯(一部緩衝帯)を応用したときの寸法変化およびモールド・キャビティに対するこの一部緩衝帯の長さの変化による影響についても追求した。

 これらのことから,リング内埋没材の動態をどのようにコントロールしたらMODインレーに代表される複雑な鋳造体の適合性を高められるか,その可能性を追求した。

5.3.1. 原型金型に対する寸法精度

1)緩衝帯について

 アスベストライニングのないとき,リング内埋没材の膨張力が鋳造リング壁に抑制されて鋳造体は大きく浮き上がる。これは原型金型の頭部および歯頸部ショルダーを除去して鋳造体の近遠心的な膨縮変化を見ると大きな収縮量を示したことからMODインレー鋳造体の外側部分の収縮により浮き上がりが生じたことがわかる。しかし,緩衝帯を設定すると,リング壁の抑制力が緩和されて収縮率量の減少が認められるが,膨張傾向は示さなかった。これは歯頸部を中心に上下10mm幅に緩衝帯を設定してもその周囲埋没材により,モールド・キャビティはリング壁の抑制力から完全には自由とならなかったこと,またアスベストライニングがないため硬化膨張が発現しなかったことなどでその外側性部分の膨張が十分に得られなかったためであろう。このことは近遠心的な膨縮変化でも膨張傾向を示さなかったことからも推察される。

 本実験中,緩衝帯がなく,ただアスベスト1枚(0.8mm)ライニングしたときが最も優れた適合性を示した。このときの近遠心的な膨縮変化では0.4%の膨張率となり,その膨張率が内側性部分にも同様に作用すると,鋳造体は内側性部分でぶつかって浮き上がるはずである。真坂54)はMODインレーが日常臨床において多くの場合にかなりの適合性が得られていることを指適し,ワックス・パターンの応力緩和,埋没材の膨張異方性,埋没材の強さによる合金の鋳造収縮抑制などの各因子をその理由に挙げている。この埋没材の強さが合金の鋳造収縮抑制に働くことは引地ら55),野口56)の報告より明らかである。MODインレーでは外側性部分に介在する埋没材により合金の凝固収縮が抑制され,内側性部分では自由にその凝固収縮が起こる。そのため鋳造体の外側性部分では膨張傾向,内側性部分では収縮傾向となることで良好な適合が得られたものと思われる。

 また,アスベスト1枚ライニングと緩衝帯との併用,さらに2枚ライニングではリング内埋没材の総膨張量が大きくなって鋳造体の内外側性部分とも過膨張となり,内側性部分が原型金型にぶつかることで,鋳造体は大きく浮き上がったものと思われる。アスベスト2枚ライニングのとき,緩衝帯の影響が認められないことから,リング内埋没材は最大膨張を示しているものと思われる。このことは,近遠心的な膨縮変化でも緩衝帯の影響がほとんど認められなかったことからも推察できる。

 以上のことから,内外両側を合わせ持つ複雑なMODインレー鋳造体はクリストバライト埋没材の膨張力におけるある一定の限定された範囲では良好な適合を示すが,過剰な膨張量によっては不適合となる。そのため,本条件では緩衝帯がなく,たんにアスベスト1枚(0.8mm)ライニングのときに最良の適合を示したものと思われる。

2)一部緩衝帯について

 アスベストライニングがなくても一部緩衝帯をモールド・キャビティ歯頸部を中心に10mm幅に設定すると,−0.14%に収縮率が減少した。これは一部緩衝帯がモールド・キャビティの外側性部分におよぼす鋳造リング壁の抑制力を緩和したためである。この一部緩衝帯の長さを20mm30mmと延長することで,アスベストライニングがなくても収縮率がほぼ0となる。

 このとき,鋳造体の近遠心の膨縮変化では一部緩衝帯を20mmに設定したときに最大膨張量を示し,30mmとの間に有意差を認めない。つまり,MODインレーの外側性部分の膨張がアスベストライニングのないときの限界を示していると思われる。

 たんにアスベスト1枚ライニングしたとき,さらに,10mmの長さの一部緩衝帯との併用では収縮率がほぼ0となり,原型金型に対していわゆるフリクショナルフィットを持つ鋳造体が得られる。しかし,一部緩衝帯の長さを20mm30mmと延長することで鋳造体の内側性部分が過膨張となり,鋳造体は浮き上がる。これは本実験に使用したMODインレーの内側性部分が広く円板状になっているためにパターン外側性部分に限局的に緩衝帯を設定してもその影響を受けやすいこと,また,一部緩衝帯をパターン外側性部分に対して広く設定しすぎたためとも考えられる。この一部緩衝帯をパターン外側性部分に対してより狭く設定したらその傾向は変ったかもしれない。

5.3.2. 印象材による適合試験

 一般に鋳造修復物の適合性は,その原型金型に対する鋳造体の浮き上がり量から論じられる場合が多い。しかし,たとえばMODインレーの寸法精度実験を考えた場合,その内側性部分の咬合面側壁などで大きく収縮し,外側性部分の軸側壁で過膨張となってもマスターダイ法では原型金型に対するMODインレー外側性部分の浮き上がり量が殆んど見られなくなるからその鋳造体は適合性が良好と判断せざるを得ない。このようなことら,鋳造修復物の適合性は鋳造修復物と支台との内的関係をも含めて評価されるべきである。吉田18),黒須ら58),大村ら59),中西60)は鋳造冠と支台とをセメント合着してその切断面から,また,Teteruck57)は真空下で支台と鋳造物との間のキャップをエポキシレジンで満たし,さらに,全体をレジン包理してその切断面より鋳造修復物の適合状態を検討している。 

 著者の一連の実験では金属原型金型のマスターダイ法を用いたために各試料の切断が不可能であり,また,上記方法による切断は操作が煩雑である。そのため,本実験では印象材を介在して鋳造体を原型金型に適合させ,試料各部位のその印象材の厚さから原型金型に対する適合性を総合的に判断する方法を用いた。

1)実験条件について

 過去,印象材によって鋳造修復物の適合度を判断しようという試みは種々行われており6163),その専用印象材も市販されている。本実験でもこの印象材を応用したところ,鋳造体の鋭利な稜角で引き裂かれる,操作性が悪い,などの問題があった。そのため,本実験ではビニールシリコーン印象材(エグザフレックス)を用いた。この印象材は硬化後の強さが強く64)撤去時の引き裂かれが少なく,室温での硬化時間が遅いので操作性も良好であった。

 細井62)はホワイトシリコーン印象材上にブラックシリコーン印象材にて裏打ちし,そのホワイトシリコーンの被膜度から義歯の適合状態を判断する方法を報告した。本実験でもこれにしたがい,ビニールシリコーン印象材をブラックシリコーン印象材の厚さを実測した。この測定を正確なものとするには,その接合面の境界を明確にすることが重要となる。そのため,両者の色のコントラストが必要となるが,このエクザフレックスインジェクションタイプとブラックシリコーン印象材との組み合わせは十分実測可能であった。

 つぎに,本実験の荷重設定について考察する。実際に口腔内で鋳造修復物をセメント合着するときの術者の手指による荷重は数10kgといわれている60)。過去,セメント合着して鋳造修復物の適合性を実験的に検討したときの荷重は,吉田18)は30kg 大村ら59)は15kgを用い,Teteruck57)は約500gの静荷重をセメントの介在しない場合に用いている。

 一方,西村ら65)はオートマチックマレットによる槌打のような動的な荷重を加えることにより膜厚が減少することを指摘している。

 以上の報告より本実験では余剰の印象材が流出してこなくなるまで動的荷重として手圧にて強圧を加え,その後500gの静荷重を加えた。

2)緩衝帯について

 アスベストライニングおよび緩衝帯がない場合,外側性部分の軸側壁で印象材の層が最も薄くなっていることから,この部分で原型金型に強く接触していることが再確認できた。また,内側性部分の咬合面側壁では原型金型との間に大きな間隙が生じた。したがって,モールド・キャビティの内側性および外側性部分の膨張力が抑制されていることがわかる。

 つぎに,アスベスト1枚ライニングのみでは鋳造体の浮き上がり量から見た場合は良好な適合を示し,本実験結果からわかるように鋳造体の各部位で均一な膨縮変化を示している。

 さらにアスベスト2枚ライニングした場合では鋳造体は大きく浮き上がるが,これは内側性部分の咬合面側壁,側壁で接触が生じているためであることが確認された。

 本実験では咬合面窩底と歯肉側の印象材の厚さは各々の鋳造体の浮き上がり量となるが,多少歯肉側の方が薄くなる傾向にあった。これは咬合面窩底ではショルダー部より余剰な印象材が逃げずらいため内部応力が発現して66)印象材のリバウンド現象がおこり,印象材の厚さが厚くなったものと思われる。

3)一部緩衝帯について

 アスベストライニングがないとき,一部緩衝帯の長さを10mmから30mmに延長して設定すると,軸側壁の収縮率がほぼ0となる。しかし,これらのグループはアスベストライニングしたグループにくらべて,咬合面側壁,側壁の内側性部分で明らかに印象材の厚い層が認められ,窩壁との間に間隙が生じた。高橋67)によればMODインレーの両脚の部分はあとから凝固する。そのため鋳造収縮が咬合面の部分に集まり,咬合面側壁との間に間隙を生ずるとしている。本実験にみられた上記現象は,このようなMODインレーの形態の差により鋳造収縮が部分的に生じたことと同時に,一部緩衝帯をモールド・キャビティ外側性部分の脚部のみに設定したためにその内側性部分ではリング壁の抑制力を受けたこと,さらには外側性部分の脚部とは異なって咬合面部では埋没材の介在がなく,合金の凝固収縮が自由に起こったことなどによるものと推察される。

 アスベスト1枚ライニングした場合,鋳造体各部位で均一な膨縮変化を示すが,一部緩衝帯20mm30mmとの併用では咬合面側壁,側壁の内側性部分で接触が生じた。しかし,一部緩衝帯の長さを10mmに限定して設定すると均一な膨縮変化が認められ,アスベスト1枚ライニングのみのときにくらべて軸側壁で膨張傾向を示した。

 これらのことから,アスベストライニングと一部緩衝帯の併用により部分的に鋳造収縮を補正し,複雑な形態を持つ鋳造修復物の寸法精度を高めることが可能となると思われる。

 

6.総括

 以上,一連の実験で明らかなように,鋳造リング内の埋没材の動態は鋳造リング壁の影響を大きく受けており,それが鋳造修復物の寸法精度に影響をおよぼすことになる。そのため,アスベストライニングの重要性が強調される。

 本実験条件ではアスベスト2枚(1.6mm)のライニング内埋没材の自由な膨張が発現するようになる。しかし,それ以下では鋳造リング壁の抑制により,リング開放端方向へ埋没材の膨張が逃げて,リング側壁方向への膨張量が不足する傾向を示す。

 また,モールド・キャビティより遠くにあるリング開放端近くの埋没材の動態が鋳造修復物の寸法精度に影響をおよぼす。そのため,アスベストリボンのライニング方法が大きな問題となる。Hollenback68)は鋳造リングの上下端から離してアスベストライニングする方法は鋳造修復物の不適合の原因となることを指摘している。著者も自由な埋没材の硬化および加熱膨張を発現させるという意味から,リング末端までアスベストライニングを施す方法がよいと考える。

 リン酸塩系埋没材には本実験の緩衝帯は有効ではなく,鋳造収縮の大きいNi-Cr合金の寸法補正は現在のところ,リングレス法にて埋没材自体の硬化および加熱膨張を自由に最大限に発現させた上で,その膨張量の不足を支台にスぺ−サ剤を塗布するスぺ−サ法69)などの他の方法を積極的に利用して補正せざるを得ない。

 MODインレー鋳造体は本実験結果から最良の適合を示すある一定の範囲が存在する。臨床においては内外側性部分を合わせ持つ複雑な一部被覆冠が多用されるが,上記現象によりその鋳造収縮補正としてのアスベストライニングの処理は慎重に対応する必要を痛感する。

 このように複雑なリング内埋没材の動態を本実験の一部緩衝帯によりコントロールすることが可能となった。すなわち,この一部緩衝帯とアスベストライニングとの併用により,複雑な一部被覆冠のとくに膨張する必要があると思われる箇所を限局して膨張させることが可能となった。

 今後,一部被覆冠の設定条件の検討,MODパターンを臨床にそくした形態に近ずけること,などの課題が残されている。

 

7.結論

 本実験ではフルキャストクラウンおよびMODインレーの寸法精度におよぼすリング内埋没材の動態について,通常の鋳造リングの上下開放端を封鎖した封鎖型リング,モールド・キャビティ周囲にリング状の空洞を設定する緩衝帯,モールド・キャビティの一部に対応して限局して空洞を設定する一部緩衝帯の各方法を用いて追求し,以下の結論を得た。

1.封鎖型リングの影響

1)アスベストライニングのない封鎖型リングでは鋳造体に大きな変形を認めたが,アスベスト2枚ライニングした場合には原型パターンにより相似した膨張を示した。

2.フルキャストクラウンの寸法精度におよぼす緩衝帯の影響

1)クリストバライト埋没材使用の場合,緩衝帯の長さが10mm20mmでは著しい効果は認められないが,30mmの長さではフルキャストクラウンが大きく膨張する傾向を示した。また,この緩衝帯をモールド・キャビティに近ずけるにしたがい膨張傾向を示した。

2)リン酸塩系埋没材使用の場合,アスベストライニングのないときに緩衝帯の効果が多少認められるものの,アスベスト2枚ライニングおよびリングレス法との併用では逆に埋没材の膨張を抑制した。

3)本実験条件ではニッケルクロム合金の鋳造収縮を十分には補正できなかった。

3.MODインレーの寸法精度におよぼす緩衝帯の影響

1)内,外側性部分を合わせ持つMODインレーでは,近遠心方向に付与した緩衝帯の長さを10mm20mm30mmと延長するにしたがい,アスベストライニングがなくても急激に膨張する傾向を示し,原型に対して浮き上がり量がほぼ0となった。しかし,内側性部分の咬合面側壁,側壁に空隙が生じた。

2)本実験ではアスベスト1枚ライニングおよびアスベスト1枚ライニングと10mmの長さの一部緩衝帯を併用した場合が最良の適合を示した。

 稿を終わるにあたり,終始懇篤なご指導とご校閲を賜った日本歯科大学新潟歯学部補綴第2講座,畑 好昭教授に深く感謝の意を捧げるとともに,ご教示,ご校閲を賜った同理工学教室中村健吾教授に深甚なる謝意を表します。また,本研究を行うにあたり種々のご協力をいただきました岩下博美助教授,高桑雅宣助手始め,教室員各位に対して,心から感謝致します。

 なお,本論文の要旨は昭和55年度日本歯科大学歯学会5月例会(昭和55年5月24日),昭和55年度日本歯科大学歯学会大会(昭和55913日,14日),第67回日本補綴歯科学会(昭和551113日,14日),および昭和56年度日本補綴歯科学会関東支部会学術大会(昭和56年6月13日)において発表した。

 

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44)桜井貞雄,鈴木 暎,山口重雄:湯溜りの効果に関する実験,歯科器誌,2:77-801955

45)井田一夫,和田千明,神田光一:歯科鋳造におけるベントの凝固促進効果について,歯材器誌,32112-1201975

46)林 弘之:アルゴンマーク鋳造器による歯科用ニッケルクロム合金の鋳造について,第1報,鋳造体の表面粗さ,口病誌,44293-3021977

47)保母須弥也:金属焼付ポーセレン,1版,27頁,医歯薬出版,東京,1965

48)野手久史:歯科用ニッケルクローム合金の埋没法と鋳造体の表面アラサについて,口病誌,40316-3371973

49)玉虫文一,富山小太郎,小谷正雄,安藤鋭郎,高橋秀俊,久保亮五,長倉三郎,井上

敏:岩波理化学辞典,3版,673975頁,岩波書店,東京,1978

50)林詔一郎:陶材焼付け貴金属鋳造冠の寸法精度に関する研究,歯学,60536-5571972

51)真坂信夫,斉藤信義:ブリッジはワンピースキャストで何本までできますか,歯科技工,2-5:160-1641974

52)相沢治郎,丸川敦子,畑 好昭,仲居 明:埋没材の強度,歯学会11月例会講演,1979

53)成田洋之:鋳造精度に関する研究,とくにその要因および対枠条件について,愛院大歯誌,1156-1051973

54)真坂信夫:なぜMODインレーは適合するか,現代の歯科臨床2,1版,91-971980

55)引地弘子,那須稔雄,松本信彦,野口八九重:鋳造収縮に関する研究()−中子の影響−,歯理工誌,18103-1091977

56)野口八九重:鋳造温度と鋳造収縮,DE3212-191975

57Teteruck, W. R. and Mumford, G.The fit of certain dental casting alloys using different investing materials and techniques, J Prosthet Dent, 16910-9271966

58)黒須アイ子,井田喜美子:インレーおよびクラウンの合着前後の適合度について,口腔病学誌,274231960

59)大村国明,片桐保昭,松野 滉,細田裕康:各種技法による全部鋳造冠の適合度の比較,歯材器誌,2630-361972

60)中西哲生:鋳造冠における再現性とセメント合着後の適合性に関する研究,歯科学報,751797-18151975

61)尾花甚一,宮田孝義,古宇田昌,川崎文孝,青山茂夫,楊箸明朗:シリコーン印象材の特殊な補綴的応用,鶴見歯学,163-681975

62)細井紀雄:義歯床の適合試験法に関する研究,鶴見歯学,2113-1341976

63)松下 茂:適合の確認法,現代の歯科臨床2,1版,135-149頁,医歯薬出版,東京,1980

64)野口八九重:付加重合型ビニールシリコーン印象材をテストする,DE5210-211980

65)西村文夫,宮治俊幸,野本 直:セメント膜厚への振動の影響,歯材器誌,2329-341970

66)国鳥康夫:シリコーン印象材の扱い方,歯界展望,39135-1471972

67)高橋重雄:鋳造収縮の補償理論,歯科技工,2-5:24-321974

68Hollenback, G. M.Science and technic of the cast restoration, pp. 174-178C. V. Mosby Company, St Louis, 1964.

69)原田博夫:鋳造修復物の寸法補正,ニッケルクロム合金による全部鋳造冠の適合性について,第66回補綴歯科学会抄録,補綴誌,254441981