歯学,vol.80,1267-1282,1993.

キャスタブル・セラミックス

畑 好昭 飯島 浩

Castable Ceramics

Yoshiaki HATA and Hiroshi IIJIMA

キーワード:キャスタブル・セラミックス,鋳造,マイカ,結晶化ガラス

1.はじめに

 クラウン修復材料を考えると,1869年にW. N. Morrisonが考案した金属板を屈曲加工した帯環と,圧印加工した咬合面部とを鑞着して作製した帯環金属冠が1960年代頃までは,クラウン製作法の主流を成してきた。

 一方,1889年,C. H. Landが全部陶材被覆冠を紹介している。この両者はいずれも19世紀後半のことであり,実用に耐える歯冠修復がクラウンブリッジの分野に導入されたエポックメーキングの出来事であったと推測する。この後間もなく,1900年代初頭にW. H. Taggardは,圧縮した亜鉛化チッ素と天然ガスを用いた鋳造技術をインレー製作に用いた。その後,鋳造収縮を補うため,マトリックスクラウンなどを経て徐々に鋳造技術が改良され,種々な歯冠修復に応用され現在に至っている。

 陶材によるクラウンも,従来の長石質陶材から,1965年,J. W. McLeanの紹介したアルミナで補強したアルミナスポーセレン・ジャケットクラウンに代わってきている。

 さらに,1950年代半ばから,陶材と金属を加熱して融着されるいわゆる焼付鋳造間やブリッジが臨床応用され,1960年から1970年代にかけて完成され,幅広く臨床に応用されている。

 このように,歯冠修復材料や方法の進歩はめざましく,ほぼ完成されているかのように思えるが,現在でも従来の修復法の欠点を改善すべく,様々な材料の開発,技術の改善が試みられている。例えば,歯質の削除量を極力抑える接着ブリッジ技法,ラミネート技法,口腔内で生物学的により安定性の高いチタン鋳造修復などがある。

 こうしたなかで,1980年代になると従来のポーセレンに代わる種々のオールセラミックスクラウンが開発され,なかでもセラミックスをロストワックス法により製作しょうとする,キャスタブル・セラミックスは1985年,D. C. Grossman1)により発表され,臨床応用されている。国内でも,種々のキャスタブル・セラミックスが研究,開発されている。

 口腔内でこうしたセラミックスが,金属におき代って使用されるには,未だ困難な道程が続くであろうが,実現すればTaggardの鋳造技術の歯科への導入で修復技術の飛躍的発展をとげたように,大きな改革の一つとなり得ると考える。

 本稿では,このキャスタブル・セラミックスについて,教室で扱っているオリンパス光学工業と共同開発した,オリンパス・キャスタブル・セラミックス(OCC)の研究,臨床応用を通じて,その全体像を記してみたい。

2.キャスタブル.セラミックス

 キャスタブル.セラミックスは,いわゆるファインセラミックスに分類され,従来の歯科用ポーセレンと異っている。

 ファインセラミックスとは,高純度の微粒子原料を精密に成形し,よく制御された焼成法で焼結させ,高度の寸法精度をもってつくられた製品を呼んでいる。

 キャスタブル・セラミックスは,ガラスを溶融し,ロストワックス法で鋳造したのち,結晶化熱処理を施して非晶質のガラス内に結晶の生成を促し,強度を向上させ歯冠修復に応用しようとする材料である。

 国内外で,研究,開発されているキャスタブル・セラミックスは,そのガラス組成からシリカ(SiO2)系とリン酸カルシウム系(CaO-P2O5)に大別できる。また,析出結晶構造から分類すると,マイカ系,リン酸カルシウム系,アパタイト系に分けられ,マイカ系としてはDICOROCC,リン酸カルシウム系としてはクリスタセラムEC. P. C. C. CMPなどのまた,アパタイト系としてはCera-PearlCASMICBioram Mなどの研究・開発が現在公表されている。このように数多くの研究がなされているが,一般臨床に供与されているのはまだその一部であり,キャスタブル・セラミックス各種の比較検討はいまだ十分になされていないのが現状である。

3.オリンパス・キャスタブルセラミックス(OCC

1)材料組成・物理的性質

 OCCのガラス組成はLiO2MgOZnOTiO2Al2O3SiO2を基本とし,溶融時の粘性の低下およびマイカ結晶を析出しやすくすることを考慮してNa2SiF6を,化学的耐久性の向上および機械的性質の増大を期待して,ZrO2Y2O3を,審美性向上の目的で着色酸化物としてFe2O3CeO2NiOを導入している2)。ガラスは本来無機物質の溶融体を結晶化することなく,固い状態に冷却したものと定義されている3)。しかし,キャスタブル.セラミックスは熱処理により最初に結晶核が形成され,さらにこの核を起点として結晶が成長する性質をもった結晶化ガラス(Crystalized glass)である4)。

 OCCは熱処理温度750℃で金雲母と呼ばれるマイカ結晶NaMg3Si3AlO10F2が析出し,870℃付近でそれに加えて,リチウム・アルミ・シリケート系結晶のうちのβ-スポジウメン結晶(LiO2Al2O34SiO2)が析出する。マイカ結晶は,マイクロラックの伝播が起こりにくい構造を有し,さらにこのβ-スポジウメン結晶が網目状に絡みあっているため,曲げ強度の高いガラス・セラミックスとなる(表1)。

 900℃で熱処理を行ったOCCとエナメル質およびポーセレンの物理的.機械的性質の比較を表2に示す。密度,熱伝導率,熱拡散率およびビッカーズ硬度は、エナメル質に近似した値となっている。一方,曲げ強度はエナメル質の約30倍,圧縮強度は2倍ほど大きな値を示す。従来のポーセレンの曲げ強度に比較してOCCは約3倍の強度をもつ。

 OCCは熱処理により,そのマイカ結晶を十分に析出させるため,1時間で750℃まで昇温し,2時間係留させる熱処理が必要である。その後さらに4℃/minで昇温して,β-スポジウメン結晶を析出させる。

 熱処理温度と曲げ強度および圧縮強度の関係は図1のようになる。図中,横軸は750℃係留が終了してから,さらに昇温させた最終熱処理温度である。すなわち,熱処理温度950℃における値は,750℃に2時間係留したのち,950℃まで昇温させたときの圧縮,曲げ強度である。また,図中750℃における値は,750℃に係留したのみで,熱処理を終了したものである。図1から理解できるように,圧縮強度は温度が上昇するにつれ,わずかながら減少するが,その値は元来極めて高いものであり,臨床上問題とはならない。

 一方,曲げ強度は逆に上昇する傾向にあり,特に850℃〜950℃の間に急激に上昇する。このため,OCCの強度を高めるためには,熱処理管理を極めて厳密に行うべきである。

 ところが,熱処理温度を上げるにつれ,OCCの透明度は減少し,950℃では全く透明度を失い,天然歯独特の透明度を得ることができなくなる。そこで,ある程度の強度と天然歯に透明感が得られるように,最終熱処理温度を900℃と定めた。

2)臨床応用への基礎研究

(1)生物学的試験

 臨床応用に先立って,OCCの生体に対する為害性を検討するため,以下の種々の生物学的試験を行った。

 ウ)急性毒性試験

 日本薬局方第十改正42輸液用プラスチック容器試験法(8)急性毒性試験の項に準拠し,OCC結晶化ガラス1ロットについて,体重20gのマウス10匹を使用して3ロット分,5日間経過観察した。その結果,異常例や死亡例は認められなかった。

 エ)溶血性試験

 日本薬局方第十改正42輸液用プラスチック溶器試験法(11)溶血性試験の項に準拠して試験を行った結果,ネガティブ・コントロールと全く同じで,溶血性を示さなかった。

 オ)発熱性物質試験

 日本薬局方第十改正42輸液用プラスチック容器試験法(10)発熱性物質試験の項に準拠して,1ロットにつき体重2.5kgの家兎3羽を3ロット分使用して試験液投与前後の体温の変化を1時間,2時間,3時間後に測定した。3ロット分,すべて投与前後の体温差は0.6℃以下であり,異常のないことが確認された。

 カ)HeLa細胞による細胞毒性試験

 OCC結晶化ガラスを中性洗剤,水および注射用蒸留水で洗浄後乾燥し,あらかじめHeLa細胞を播種したシャーレに配置し,細胞が均一に分布するように静かに振とうした。コントロールを含め3ロット培養器内で静置培養し,顕微鏡で細胞の状態を観察した結果,コントロールと同様に細胞増殖が観察され,異常は認められなかった。このほか,口腔粘膜刺戟性試験,変異原性試験,接触性アレルギー試験を行い,いずれも異常を認めなかった。

 以上のことから生体に対してOCCは,為害性のないことが証明された。

(2)寸法精度

 キャスタブル・セラミックスは,ガラスの鋳造そして結晶化熱処理という従来の金属鋳造冠とは異った過程を経るため,その寸法精度は金属鋳造冠の理論をそのまま当てはめることはできない。そこで,OCCクラウンの製作過程における鋳造と結晶化熱処理時のクラウン内面の寸法精度の挙動を3次元座標測定法を用いて検討した5)。

 実験方法は,高さ10mm,テーパー1/10の支台原型金型上で作製したワックスパターンを,リン酸塩系埋没材で埋没,鋳造して,OCCクラウンを作製し,アズキャストと結晶化熱処理後のクラウンの寸法精度を比較した。測定は,OCCクラウン内面の咬合面部を基準面とし,この面から長軸方向に1mm,3mm,5mm,7mm,9mm離れた部位のOCCクラウン内面の直径を測定し,支台原型金型の寸法と比較して各条件下のOCCクラウンの膨張率を算出した。その結果,0.700.81%の結晶化に伴う収縮が認められたが,900℃熱処理のOCCクラウンの形状はマージン部よりで膨縮率が減少するアズキャストと同様の傾向を示しており,結晶化時の収縮に伴う変形は観察されなかった(図2)。また,埋没材専用液と濃度調整のための蒸留水の混合割合を体積比で,3:1,1:1,1:3(それぞれ25%希釈,50%希釈,75%希釈)に変えた結果,専用液の希釈によるOCCの膨縮率の減少が観察された(図3)。

(3)磨耗試験

 OCCは,歯冠修復材として優れた物理的・機械的性質を有している。しかし,口腔内においては様々な因子が重なりあった結果生じる磨耗,咬耗に対する耐久性を有していなければならない。そこで,OCCと各種歯冠修復用材料のブラッシング磨耗試験を行い比較検討した6)。

 実験に用いた材料は,OCCA(ステイニングおよびグレージングなし),OCCS(ステイニングおよびグレージング有り),Type「金合金(G-CキャスティングゴールドMC),光重合型硬質レジン(Kulzerデンタカラー),焼き付け用陶材(松風ユニボンド)である。各試料は,15×15×2mmの大きさに製作し,鏡面研磨を行った。それぞれの試料を,粘着性アルミテープでブラッシング滑走面が5.0×10.0mmになるようにマスキングし,ホワイト&ホワイト(ライオン)を用いて往復ブラッシング装置にかけ30,000回,60,000回,90,000回ブラッシング磨耗試験を行った。使用歯ブラシは,プロスペックアダルトミディアムを用い10,000回ごとに交換した。そして,ブラッシング前後に重量を測定し,磨耗重量を体積に換算して磨耗量を比較した。その結果,レジン以外の試料に関しては,磨耗体積はいずれも材料間,ブラッシング回数間で有意差はなかった。レジンにおいてのみ他の材料より有意に大きな磨耗量を示した(図4)。OCCSは,90,000回ブラッシング後もほとんど変化は観察されなかった。このことから,ステイニングを行う,行わないにかかわらず,OCCの耐ブラッシング磨耗はかなり高いものであると確認された。

(4)接着試験

 セラミックスを接着性レジンで強固に接着裏装し,複合材料化することによって強度増加を図ることへの試みが論じられており78),渡辺ら9)が鋼球落下式衝撃試験で,増原ら10)がハンマーによる衝撃破壊試験でその有効性をある程度確認している。

 他のセラミックスで認められたレジンセメントとの接着効果がOCCでどの程度期待できるかは興味深い。

 そこで,OCCとレジンセメントとの接着性を引張試験で確かめ,さらに「OCC−レジンセメント−被着体」の3層構造の接着体の曲げ応力に対する挙動を3点曲げ試験で観察して,OCCとレジンとの接着強さと,曲げ応力に対するOCC−レジンの複合効果の影響を検索した11)。

 図5に示すように,結晶化の終わったOCC12×12×5mmの板状に調整し,接着に供する面を#1500の耐水ペーパーで研磨した。実験条件に応じて表面処理を施したOCCの接着面に直径4mmの穴を開けたセロハンテープ(厚さ55μm11×11mm)を貼付し,接着面積を規定する。スーパーボンドおよびパナビアをメーカーの指示に従って混和し,板状OCCならびに被着断面を#800の耐水ペーパーで研磨したのち,30秒間5気圧のアルミナサンドブラストを行った直径6mm,長さ30mmの棒状SUS304の接着面部に塗布して垂直に接着し,引張接着試験用試料とした。

 島津オートグラフAG2000の試料把持部両端に,引張方向を接着面と垂直にするためのユニバーサル・ジョイントをとりつけ,接着した試料をクロスヘッドスピード2mm/minで牽引し,引張接着強さを測定した。

 焼成用陶材のフッ化水素酸(以下フッ酸と呼ぶ)処理は,接着性レジンとの接着強度の向上に有効であるといわれている。そこで,OCCの接着面をUNI CLEANSHOFUフッ素濃度13%)に浸漬してフッ酸処理を行った。浸漬時間を0秒(コントロール),306090秒の4条件とし,接着力を測定したところ,フッ酸処理30秒で接着強さが最大となったが,コントロールとの有意差は認められなかった。しかし,30秒を越えると,処理時間が長くなるほど,接着強さは減少した(図6)。

 フッ酸を用いて陶材を処理した場合,処理面が清浄となり,陶材表層のシリカがエッチングされて凹凸ないしアンダーカットを呈し,合着剤による接着強さの向上に有効となる12)。

 ところが,OCCの場合には,フッ酸による表面処理が引張接着強さに必ずしも有効でないという結果が得られた。

 そこで,さらにOCCの表面処理として,シランカップリング処理とサンドブラスト処理を選択し,接着試験を行った。シランカップリング処理(以下シラン処理と呼ぶ)は,無機質を主成分とする陶材と有機質であるレジンセメントを接着するために有効な表面処理である1314)。この実験では,接着にパナビアとスーパーボンド2種類のセメントを用いたが,スーパーボンドで接着する場合にはシラン処理剤としてPorcelain Liner MSUN MEDICAL)を,パナビアでの接着の場合には,CLEARFIL PORCELAIN BOND KURARAY)を用いた。

 また,サンドブラスト処理(以下サンドブラストと呼ぶ)は,アルミナサンドブラストを5気圧,ガラスビーズを3気圧で,両者ともノズルを試料表面に垂直に約15cm離して30秒間行った。

 その結果,スーパーボンドの場合は,シラン処理の効果は認められなかったが、アルミナサンドブラストはコントロールの無処理に比較して,有意に接着力の向上が認められた(図7)。一方,パナビアの場合では,シラン処理,サンドブラストともに高度に有意となり,各水準間で多重比較を行った結果,シラン処理−アルミナサンドブラストの組合せが,他の組合せに対して高度に有意な接着強さを示した(図8)。

 3点曲げ試験用試料として,OCCSUS30440.0×4.0×1.5mmの板状に調整した。OCC の接着面には各種の表面処理を,SUS304の表面は5気圧のアルミナサンドブラストを施した。スーパーボンドとパナビアをそれぞれメーカーの指示に従って混和し,OCCおよびSUS板の接着面にセメントをスパチュラで薄く一層塗布して,両者がずれないように接着した。

 セメント混和開始2分後,定荷重装置で20分間15kg荷重で加圧したのち,余剰レジンを除去した。接着後の試料の厚さは,すべて3.0±0.1mmの範囲内にあり,JIS規格R1601の3点曲げ試験の試料の寸法に適合する(図9)。

 接着後40.0×4.0×3.0mmとなったOCCSUS板との接着体を,支点間距離30mmで支持し,島津オートグラフAG2000を用い,JIS規格R1601に準拠し,3点曲げ強さを測定した。試験用試料のOCC側から荷重した場合の3点曲げ強さの母平均推定値とその95%信頼区間を,セメントの種類により比較したものが図10である。検定の結果,危険率1%でスーパーボンドがパナビアより大きい値を示した。

 図11に,各種サンドブラストによる3点曲げ強さの母平均推定値と95%信頼区間を示す。平均値の差を比較した結果,3点曲げ強さの最も小さいガラスビーズと最大のアルミナとが危険率1%で有意となった。

 また,OCCのラミネートベニア修復への応用を前提として,より大きな接着強さを得るためのOCCの表面処理条件の決定を目的とし,光・化学重合型のポーセライトデュアルキュアセメント(KERR)とOCCとの接着性を検討した15)。

 各種表面処理を施したOCC板状に,接着面積を規定するアクリルチューブを圧接し,チューブ内でセメントを硬化させて,剪断接着強さを測定した。OCCのフッ酸処理濃度と処理時間を変化させた結果,5%フッ酸15秒処理で230kg/cm2が最高値であったが,最低値を除いた他の条件との有意差はなく,スーパーボンドの場合と同様,フッ酸処理の効果は認められず,OCCにフッ酸処理は不適と考えられる。また,ポーセライト単味では,OCCとの接着性は示さなかったが,シランカップリングおよびボンディング処理を施すと接着強さは大きくなり,特にシランカップリングおよびボンディング処理と50μmサンドブラストの組合せが291kg/cm2と,本実験中で最大の接着強さを示した。

(5)有限要素法による解析

 口腔内ではセラミックス・クラウンの支台は,生活歯では歯質であり,失活歯ではコンポジット・レジンや鋳造合金などいろいろな材料で築造されている。この場合,弾性率の異なる各種セラミックス・クラウンが支台に装着されたとき,支台構成材料の種類により,その物理的強度が左右されると考えられる。そこで,下顎第1小臼歯を支台としたセラミックス・クラウン修復を想定して,セラミックス・クラウン材料として長石質ポーセレン,アルミナスポーセレンおよびOCCの3種と,支台構成材料として天然歯,金合金およびコンポジット・レジンの3種を選び(図12),それぞれを組合せ,計9種類のモデルを設定した。そして各モデルに頬側垂直荷重,頬側45°荷重,頬側水平荷重,舌側水直荷重の4方向の荷重を負荷し,クラウン内部に生ずる引張応力の分布状態を二次元有限要素法を用いて鈴木ら16)が解析し,次の結論を得た。

 1.天然歯支台では,歯髄腔の影響により荷重側,反対側ともに引張応力が発生する。

 2.支台構築がなされていれば支台構成材料の種類にかかわらず引張応力は荷重側のみに生ずる。

 3.荷重点より咬頭頂寄りでは引張応力は生じにくく,3種のセラミックス・クラウンとも支台構成材料の影響を受けにくい。

 4.天然歯支台の頬側45°荷重と頬側水平荷重のとき,引張応力はセラミックス・クラウンのヤング率の大きさに比例し大きくなる等の結論が得られた(図13)。

 また,井田ら17)は,下顎第1大臼歯の近心咬頭と近心根を通る解析モデルを用いて,支台歯縮小形態における咬合面削除量の影響について調べた。生活歯において支台歯咬合面が縮小形態でOCCクラウンの厚さが機能咬頭で,1.5mmのもの,2.0mmのもの,2.5mmのものの3種について比較したところ,支台形成量が少ないとクラウン内部に生じた応力と荷重部応力とが連続し,破折の危険性が増大することが判明した。さらに,OCCクラウンの厚さが2.0mmの縮小形態と,支台歯咬合面削除が平面形態のもので,OCCクラウンの厚さが機能咬頭で2.0mmのもの,2.5mmのもの3種のモデルを比較検討したところ,平面形態の方が引張応力がOCC クラウン咬合面部厚径の減少に伴い,クラウン内部にまで波及する結果となった。

 これらの結果より,OCCクラウンの予後に支台形態の良否が大きく影響することが示唆された。

 また,OCCの欠損補綴応用の可能性を検討する目的で,OCCブリッジの応力解析を行っている18)。

 下顎第一大臼歯欠損で第二小臼歯および第二大臼歯を支台歯とするポンティック連結部の垂直的厚径が2mm,3mm,4mmの3種のOCC固定性ブリッジの近遠心断解析モデルを作製した。さらに支台歯の条件として,生活歯支台,Type「金合金による築造およびコンポジット・レジンによる築造の3種を設定した(図14)。なお,荷重条件はポンティック中央部に1kgf負荷した集中荷重と,5個所の咬頭頂部に各々0.2kgf負荷した分散荷重の2条件とした。

 その結果,すべての条件においてOCCブリッジの引張応力の集中はポンティック連結部下面に認められ,同条件下ではポンティックと第2小臼歯との連結部(近心連結部)に比較して,ポンティックと第2大臼歯との連結部(遠心連結部)の方が発生する最大引張応力値は大きくなった。

 集中荷重条件の場合,近心連結部,遠心連結部ともにその最大引張応力値はType「金合金とコンポジット・レジン支台ではほとんど差が認められなかったが,天然歯支台では両者に比較して大きな応力の発生が認められた。また,天然歯支台では連結部厚径の影響が顕著であったが,Type「金合金とコンポジット・レジン支台では大きな影響は認められなかった(図15)。

 分散荷重の場合,集中応力の場合と同様に生活歯支台ではType「金合金とコンポジット・レジン支台に比較して大きな値を示した。また,遠心連結部においては生活歯支台の場合にのみ連結部厚径の影響が認められたが,近心連結部において各支台条件ともに厚径の影響は認められなかった。今後,さらに連結部補強法の検討など,OCCブリッジの可能性について検索する所存である。

(6)陶材溶着

 キャスタブル・セラミックスの色調は,比較的天然歯に類似しているものの,鋳型に溶融ガラスを鋳込んで製作されるため,単色しか再現できず,色調再現法が問題点となる。このため,より審美性を向上させるためにガラス自体に着色材を含有させる方法,キャスタブル・セラミックス・クラウン表面にステイン材やシェーディングポーセレンを焼成する方法,キャスタブル・セラミックスをコアとして使用し,ポーセレンを積層,焼成する方法などが用いられている。

 そこで,OCCにポーセレンを焼き付けた場合の溶着強度を調べるため剪断試験を行い,Ni-Cr合金にポーセレンを焼き付けたものと比較した。さらに溶着のメカニズムについてSEMおよびX線マイクロアナライザーにより解析を行った19)。

 実験に使用したOCC試料は,5×5×10mmの角柱で900℃で結晶化熱処理を行い,溶着面は鏡面研磨とした。使用したポーセレンはビタデュールアルミナスポーセレンのデンチン色353Nである。OCC試料の断片に金型を用いて5mmの厚さにポーセレン築盛し,充分コンデンスを行った。これをメーカー指示の昇温スケジュールに従い焼成した。その後,ポーセレンの収縮を見込して4×4×13mmに整形した。次に,比較として同サイズのポーセレン焼成用Ni-Cr合金(サンキン社製ニクロムボンド)をアルコールで超音波洗浄後,ディギャッシング,サンドブラスト処理を行い,アルコールで超音波洗浄後にセラムコポーセレンのペイントオペークおよびA3ボディー色を築盛,焼成した。その後OCC試料と同寸法に形態を整えた。剪断試験は,島津製作所社製オートグラフAG2000Bによりクロスヘッド0.5mm/minで行った。試料数は,おのおの7個ずつで計14個である。次にX線マイクロアナライザーにより分析を行うために同サイズのOCC試料を作製しポーセレンを焼き付けたのち,試料を半分に切断し,明石製作所社製DS-130型走査型電子顕微鏡およびPhilipsEDAX9100/60エネルギー分散型X線マイクロアナライザーで解析を行った。

 剪断試験の結果を図16に示す。平均値はOCCにポーセレンを焼き付けたものでは,444.9±11.7kgf/cm2Ni-Crにポーセレンを焼き付けたものは229.3±13.8kgf/cm2でありt検定の結果,危険率1%で有意となった。破断面を観察してみるとNi-Crではポーセレンと鏡界面で剥離していたのに対し,OCCではポーセレンが剥離する前に試料自体の破壊が認められた。これらのことからポーセレンは,OCCに対して高い溶着力を示すことが認められた。また,X線マイクロアナライザーにより解析を行った結果では,本来OCCには存在しないKイオンがポーセレン側からOCC側へ約24μmの深さまで拡散しているのが認められた。

(7)臨床試験

 OCCの臨床使用上の有用性および安全性を検索する目的で,当教室とNTT長野病院歯科にて,53名の臼歯部に単冠の全部被覆冠形式で69歯装着し,臨床試験を行った20)。

 臨床試験は昭和62年1月22日より装着を開始し,装着期間は平均1年11ケ月,最短8ケ月,最長2年4ケ月であり,そのうち97.0%は日常なんら問題なく機能していた。

 69歯中破損した症例は2歯認められその原因は,適合性,クラウンの厚径,適応部位およびその他の偶発事項に起因したものであった。また,69歯中4歯にタバコのタール付着が,5歯にプラークの付着がみられたが,全体的に,OCCクラウンの方が隣材歯よりプラークの付着が少ない傾向にあった。さらに,OCCクラウンに起因するアレルギー反応や口腔諸組織への為害作用は全く認められず,全身的および局所的に十分安全であると判断された。

 また,生活歯を対象に,インレー20,アンレー10,フルベニアクラウン10症例の3種の形態のOCC修復物の臨床試験を平成2年7月から行った21)。患者リコール時には,9種の診査項目について,U. S. P. H. S. の評価基準22)を参考に一部改編し,口腔内での直接診査を主体に,レプリカ模型によるSEM観察もあわせて行い,金銀パラジウム合金製修復物や,コンポジット・レジンインレーと比較検討した。

 試験症例の経過期間は平均6.8ケ月であり,表面粗さ,辺縁部変色,二次齲蝕,対合歯の磨耗,隣接面コンタクト,体部破折の6項目についてすべての修復物に異常,変化は認められなかった。

 OCC修復物のうち,10症例に辺縁部の微細なチッピングが観察され,グラスアイオノマーセメントを使用した症例がその多くを占めた。コンポジット・レジンセメントを使用したOCCインレーは,レジンインレーに比較してチッピングの発生率は小さかった。

 また,OCCを装着した症例で歯髄反応が9症例に認められたが,歯髄保護作用を有する接着性ライナーの使用上の不備に起因する咬合痛1症例を除いて,すべて経時的に消失した。

 使用セメントの選択や歯髄保護対策を厳密に行うことにより,生活歯支台を対象としたOCC修復物の臨床上の安全性は確保できるとの結論を得ている。

3)臨床応用

(1)OCCクラウンの製作

 OCCクラウンの製作ステップフローチャートを図17に示す。OCCはロストワックス法にて作製されるため,キャスタブル・セラミックス特有の結晶化熱処理(セラミング)の過程を除いて,基本的に金属鋳造冠の製作と大きな違いはない。ただし,症例や装着部位によっては表面にステイニングを行ったり,ポーセレンを築盛・焼成するなどの色調再現上の操作が必要になる。

 OCCクラウンの製作方法を臨床例を通して説明する。

 支台歯形成は全周ショルダーあるいはヘビーシャンファーとし,適正な修復物厚径を確保できるように削除量に留意しながら行う。OCCクラウンにおいては軸面で1.0mm以上,咬合面で1.5mm程度の削除量が必要であり,若年者の生活歯や歯冠長の短いものなどでは適応とならない場合がある。また,ブラキシズムやクレンチングなどの咬合悪習癖を有する患者では,非生理的な応力により破折する可能性もあるので,術前の診査も厳密に行わなければならない。

 通法により印象採得し,専用の超硬質石膏を注入,作業模型を作製する。クラウンの厚径に留意しながらワキシングする。直径3.2mm,長さ10mmのワックススプルーを咬合に関しないワックスクラウン肉厚部に植立する(図18)。

 鋳造用リングに厚さ0.5mのセラミックス製リングライナーを巻き,クルシブルフォーマーにワックスクラウンを植立し,ただちに専用のリン酸塩系埋没材にて埋没する。リングは800℃でワックスを完全に焼却し,鋳造温度の550℃まで降温する。

 OCCガラスは色調別に4種類用意されており,ガラス1ロッドごとアルミナ製の溶融用ルツボに入っている。症例に応じてガラスを選択し,専用鋳造機(図19)の溶融炉にルツボごとセットする。マイコン制御により,電気炉は1,450℃まで上昇し,数分間でOCCガラスを溶融する。その後,鋳造温度の1,250℃まで降温し,鋳造機にリングをセットする。鋳造ボタンを押すと電気炉は反転,溶融ガラスをリングの湯口に注ぎ,遠心鋳造が行われる。鋳造が終了したら直ちに550℃に保持されているリングフォーネスにリングを戻し5分程度アニーリングする。これは急激なガラス冷却による内部応力ひずみを開放するための操作である。リングを室温中で十分に放冷し,鋳造体を傷つけないように埋没材から掘り出す。この状態のOCCクラウンはガラス質状態の極めて脆弱な状態であるので取扱には注意が必要である。

 スプルー線を陽だまりボタンとの界面から切断した鋳造体をアルミナ製の灼熱箱に納めて,セラミング用ファーネスで結晶化熱処理(セラミング)を行う。基本的なセラミングスケジュールを図20に示す。1時間で750℃まで昇温し,2時間係留する。その後4℃/min900℃まで昇温し,炉内放冷する。ただし,セラミングの最終温度により,OCCの色調,特に光の透過性が変化することを利用して,症例に応じて最終温度は880900℃間で調整している。放冷時間を含めて約6時間でセラミングが終了する。

 表面に付着している埋没材をサンドブラスターで完全に除去し,歯型に戻してダイヤモンドポイントやカーボランダムポイント類でOCCクラウンの調整を行う。シリコンホイールおよびポーセレン用研磨材で表面を研磨し,完成する。

 また,必要に応じてステイニング・グレージングあるいはポーセレンを焼成する。

 OCC表面のステイニング層は30μm程度のごく薄い層であるが,前述の磨耗試験結果から明らかなように十分ブラッシングに耐えうるものである。ステイニング層がごく薄いため,ワキシング時に修復物の最終形態をほぼ再現することができ,また,ステイニング操作も簡便なため,咬合接触の複雑な臼歯部や修復物の形態が複雑なインレーあるいはパーシャルベニアクラウンなどに適している。

 前歯部のより審美的要求の高い部位の場合は,ポーセレンを併用し,OCCコア上に積層築盛焼成することにより深みのある色調を再現する。陶材焼付鋳造冠のようにメタルコーピング色を遮断するオペークポーセレンの使用が必要ないので,天然歯に近い光透過性を得ることができる。むろん,アンテリアガイダンスに関与する例えば上顎舌側部などは,対合天然歯を磨耗させる危険性のある固いポーセレンの使用を避けて,エナメル質と同等の硬度を有するOCCで咬合誘導するように,クラウンのデザインを決定する配慮が望ましい。

 図21の第1大臼歯は表面をステイニングしたOCCクラウンをデュアルキュアタイプのレジンセメントで合着したOCCクラウンである。

(2)その他の臨床応用

 近年の口腔審美性に関する関心の高まりから,審美歯科修復も多様化されつつある。従来,オールセラミックレストレーションの主体はフルベニアクラウンであったが,ここ数年,ポーセレンインレーやポーセレンラミネートベニア修復の臨床頻度が増えてきている。しかし,ポーセレンを用いてこれらに複雑な形態あるいはごく菲薄な形態の修復物を作製するには,高度な技術と熟練が要求される。

 一方,キャスタブル・セラミックスであるOCCはワキシングにより,形態を再現するため,種々の修復形態のセラミックス製修復物作製が容易であり,特別な手法も必要としない。このため,他の歯冠修復用セラミックスに比較してその適応範囲は広い。フルベニアクラウン,パーシャルベニアクラウン,インレー,アンレーおよびラミネートベニア修復など,先に述べた現在検討中であるブリッジを除いてほとんどの歯冠修復に対して適応可能であり,当教室においても多種の症例を重ねつつある。以下にその一部を紹介する。

 図2213年前に 321 123 を金合金製の3/4クラウンで連結固定した症例である。本年,3の2次カリエスのため,同部の3/4クラウンを撤去し,軟化象牙質を除去したが,唇側歯質は健全であった。また,現在は3は骨植強固であり,321 12も3との連結を必要とする状態ではなかったので,3のみの単独修復とした。金属色が見えないものをとの患者の希望もあり,若干支台歯に修正を加え,OCCの3/4クラウンを装着した(図23)。患者は十分満足している。

 図24は6のアマルガム修復の2次カリエスをOCCにて修復した術前の写真である。旧充填物および軟化象牙質を除去し,窩洞形成を行った。窩洞外形は丸みを帯びさせ,線角点角は応力が集中しないようにラウンド形とした。また,形成時には,咬合紙にて咬合接触点を印記し,接触点が修復物マージンにかからないように外形線を設定した(図25)。図26OCC2級インレーを装着した写真である。合着にはデュアルキュアータイプのレジンセメントを使用し,OCC内面はシランカップリング処理を行っている。

 図27は2欠損症例であり,3を本来の2の位置に,4を同じく3の位置に矯正治療により,移動した症例である。4と5の隣接面は接触しておらず,2mm程度のスペースが存在した。34ともカリエスのない健全歯であった。咬合診査により,3で偏心位の誘導が行われていた。そこで,4に唇側の形態を3に類似させた陶材焼付鋳造冠を装着し,5との接触を図り,かつ,偏心位での誘導を行わせること,また,3はOCCラミネート修復にて2の形態に類似させるように設計し,支台歯形成を行った(図28)。同症例の修復終了時を図29に示した。

4.おわりに

 歯冠修復材料に用いるキャスタブル・セラミックスについて,マイカ系のOCCを代表に選んで述べた。

 このキャスタブル・セラミックスは,従来の鋳造技術によって,特殊な技術を用いることなく,容易に歯冠修復物作製に応用できること,優れた生体親和性により,金属アルレギーや腐食などの金属修復物のもつ問題点を克服し得ること,審美的修復が容易に行い得ること,適当な機械的強度,硬さを備えていることなどが特徴としてあげられる。現在,これらの項目すべてが完全にその特徴を発揮できる状況にあるとはいい難いが,研究を重ねてゆけば広く歯冠修復物の分野に,魅力ある素材として発展するものと期待している。

文献

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22Gregoly,  F. P. A Clinical comparison of a microfilled and conventional composite resin in class  and class restorationsMasters thesis,  Indiana University,  school of Dentistry,  1980.