−セラミックス材料と支台構成材料の関係−
Finite Element Stress Analysis of Ceramics
Crown on Premolar
−The
Relation between Ceramics Materials and Abutment Materials−
Hajime Suzuki and Yoshiaki Hata
Analyzing
the stress distribution by the finite element methods, a two-dimensional model of jacket crown
preparation was designed on lower first premolar, and restored it by ceramics crown. Under four loading conditions,
the tensile stress distributions on the ceramics crown were analyzed to
evaluate the relations between three kinds of ceramics crown, which were an aluminous porcelain jacket
crown, a feldspathic porcelain jacket
crown and an Olympus castable ceramic(O.C.C.)crown, and three kinds of
abutment which were a natural tooth, a
gold cast core and a composite resin core.
And following results were obtained:
1.When
the abutment was a natural tooth, the
tensile stresses were apt to occur all over the ceramics crown and these
magnitude were increased in proportion to the hight of Youg’s modulus of the ceramics
materials.
2.When
the abutment was a gold cast core or a composite resin core, the tensile stressas were produced only at
the loading side of the ceramics crown,
and the magnitude of stress were little affected by the type of core
materials.
Key words:stress analysis, tensile stress, ceramics
crown, finite element method, abutment material.
セラミックスは生体親和性,審美性,耐変色性および耐摩耗性に優れることから長石質ポーセレン,アルミナスポーセレン,そして近年キャスタブルセラミックスなどがフルセラミックスクラウンとして前歯や小臼歯歯冠修復に臨床応用されている。
しかし,ときに破折を経験することがあり,その臨床上の原因としては,支台形態の不良,適応症の誤り,技工上の問題があげられる。これらの破折は応力集中や疲労,そして衝撃等によるセラミックスの脆性破壊といったセラミックス材料自体の力学的強度の問題として集約できる。今日まで破折の原因を究明するため,数多くのセラミックスクラウンの力学的検討の報告がある。
1937年,Conod1)が支台形態の力学的検討として幾何学的図法による支台形態と破折の関係を報告して以来,ポーセレンジャケットクラウンの応力解析としてWaltonら2),Pettrow3),Lehmanら4),大竹5),近藤6),榎本7)の光弾性実験法によるもの,石井8),坂口9)の抵抗線ひずみゲージ法によるもの,小森ら10)の有限要素法の組合せによるもの,冲本12,13)の光弾性実験法と抵抗線ひずみゲージ法の組合せによるものと,有限要素法によるものなどが報告されている。アルミナスポーセレンジャケットクラウンの応力解析としては,Farahら14)の有限要素法によるものがみられる。
また最近新たに精密鋳造ができ機械的強度に優れたキャスタブル・セラミックスが種々開発臨床応用されているが,マイカ系キャスタブル・セラミックスクラウンの応力解析として西本ら15)の有限要素法によるものもみられる。
これらの報告からセラミックスクラウンの合理的な支台形態や,各種セラミックスクラウンの口腔機能時の力学的挙動が明らかにされてきた。しかし口腔内ではセラミックスクラウンの支台は,生活歯では歯質であり,失活歯ではコンポジットレジンや鋳造合金などいろいろな材料で築造されている。この場合,弾性率の異なる各種セラミックスクラウンがこれらの支台に装着されたとき,支台構成材料の種類によりその物理的強度が左右されると考え両者の関係の究明を計画した。そこで,セラミックスクラウンを代表するものとして長石質ポーセレンジャケットクラウン,アルミナスポーセレンジャケットクラウンおよび当教室とオリンパス光学工業(株)が開発したオリンパス・キャスタブル・セラミックス(O.C.C)クラウンの3種を,そして支台構成材料として天然歯,コンポジットレジン,金合金の3種を選び,それぞれのクラウン材料と支台構成材料の両者の組合せから,咀嚼機能時のクラウン内部に生ずる応力の分布を二次元有限要素法を用いて解析し,破折や脱落の原因を考察した。
下顎第1小臼歯のセラミックスクラウン修復を想定し,藤田ら16)による日本人の平均的な形態と寸法を参考にしてこの歯牙の頬舌断面を作図した。支台形態はアルミナスポーセレンジャケットクラウン修復に準じ,審美性と強度の点からショルダー幅を0.8mmとし,元の歯と相似的な形とした。クラウンの厚みは最大豊隆部で頬側1.2mm,舌側1.5mm,咬頭部で1.5mmになるようにした。また,築造体の合釘の長さは11mm,太さは歯冠寄り3mm,先端1.2mmとした。そして,セラミックスクラウン材料として選択した長石質ポーセレン,アルミナスポーセレンおよびO.C.C.の3種と,支台として選択した天然歯支台,金合金支台,およびコンポジットレジン支台の3種とをそれぞれ組合せ,計9種類のモデルを設定した。そして,この頬舌断面図を572個の要素と555個の節点に分割し二次元平面ひずみ問題として解析を行った。モデルの構成要素はエナメル質,象牙質,歯髄,金合金,コンポジットレジン,長石質ポーセレン(以下ポーセレンと呼ぶ),アルミナスポーセレ,O.C.C.,歯根膜,根充剤からなり(Fig.1),これらの材料定数11,14,17〜19)をTable1に示した。解析のための計算にはFACOM VP50を用いた。
荷重はそれぞれのクラウンの頬側咬頭外斜面に歯軸に対して0°,45°,90°の3方向,また中央溝には歯軸に対して0°の1方向計4方向から作用させた。以下,外科面0°を頬側垂直荷重,45°を頬側45°荷重,90°を頬側水平荷重,中央溝0°を舌側垂直荷重と呼ぶ。
荷重は1kgの集中荷重とし,固定点は歯根膜の外側を完全に固定することとした。
解析モデルの中からクラウン部のみをとりだし応力解析を行った。一般にセラミックスは典型的な脆性材料であり圧縮応力に強く,その破壊は最大引張応力に支配される脆性破壊といわれている20)。そこで本研究ではセラミックスクラウンの弱点とされる引張応力に着目し,各要素内の4積分点における引張応力値を評価した。評価は,0.3kg/mm2以上の応力値を0.3kg/mm2幅で6段階に分けて行った。
金合金支台とコンポジットレジン支台の場合,3種のセラミックスクラウンとも,引張応力は荷重点より咬頭頂寄りの表層にみられ,その大きさは最大で0.6〜0.9kg/mm2であった。
天然歯支台の場合,3種のセラミックスクラウンとも舌側歯頸側表層1/3〜1/2に最大引張応力がみられ0.3〜0.6kg/mm2であった。3種のセラミックスクラウンは同じ支台構成材料間では引張応力の分布とその大きさは同傾向にあった。
金合金支台とコンポジットレジン支台の場合,3種のセラミックスクラウンとも引張応力は頬側歯頸部と荷重点周辺にみられ,その大きさは0.3〜0.6kg/mm2が多かった。特にコンポジットレジン支台では荷重点直下の支台との境界部付近にもみられ,アルミナスポーセレンジャケットクラウンの場合最大となり,その引張応力値は0.6〜0.9kg/mm2であった。
天然歯支台の場合,3種のセラミックスクラウンとも頬側内面全体と舌側歯頸側表層1/3〜1/2に引張応力がみられた。アルミナスポーセレンジャケットクラウンでは荷重点直下の支台との境界部に0.9〜1.2kg/mm2の引張応力がみられ,また舌側歯頸側表層1/3で頬側45°荷重時のモデル内の最大引張応力1.5〜1.8kg/mm2がみられた。一方,ポーセレンジャケットクラウンとO.C.C.クラウンでも同様に舌側歯頸側表層に最大引張応力がみられ,それぞれ0.9〜1.2,0.6〜0.9kg/mm2の値を示した。3種のセラミックスクラウンとも最大引張応力の発生部位は同じ傾向にあったが,その値は,O.C.C.クラウン<ポーセレンジャケットクラウン<アルミナスポーセレンジャケットクラウンの順に大きくなった。
金合金支台とコンポジットレジン支台の場合,3種のセラミックスクラウンとも,引張応力は荷重点より下方の頬側のみにみられ,天然歯支台の場合,荷重点付近とその下方の頬側内面および舌側表層にみられた。
金合金支台では,3種のセラミックスクラウンとも全体的には0.3〜0.6kg/mm2の引張応力がみられたが,部分的には荷重点直下の表層に0.9〜1.2kg/mm2,頬側歯頸部内面に0.6〜0.9kg/mm2の引張応力がみられた。特に,アルミナスポーセレンジャケットクラウンでは頬側歯頸部内面の引張応力値は0.9〜1.2kg/mm2に達した。クラウンの頬側表層と内面を比べると引張応力は歯頸部では内面が,そして上方では表層が大きい傾向にあった。
コンポジットレジン支台では,3種のセラミックスクラウンとも頬側に0.3〜0.6kg/mm2の引張応力が多いが,頬側歯頸側内面と荷重点直下の表層には0.9〜1.2kg/mm2の引張応力がみられた。特に,アルミナスポーセレンジャケットクラウンでは歯頸側内面に広範囲にみられた。
天然歯支台では,アルミナスポーセレンジャケットクラウンの頬側歯頸側内面1/2と舌側歯頸側表層1/3に全モデル内での最大引張応力1.8〜2.1kg/mm2がみられた。ポーセレンジャケットクラウン,O.C.C.クラウンとも天然歯支台で最大の引張応力がみられ,それぞれ1.2〜1.5,0.9〜1.2kg/mm2であった。
支台間で引張応力の大きさを比較すると天然歯が大きく金合金支台とコンポジットレジン支台では同じ傾向にあり,また3種のセラミックスクラウン間では,O.C.C.クラウン<ポーセレンジャケットクラウン<アルミナスポーセレンジャケットクラウンの順に,すなわちヤング率の大きくなるほど引張集中応力値が大きくなる傾向にあった。
金合金支台の場合,3種のセラミックスクラウンとも荷重点表層に引張応力がみられた。
コンポジットレジン支台の場合,アルミナスポーセレンジャケットクラウンの荷重点直下の支台境界部のみに引張応力がみられた。
天然歯支台の場合,O.C.C.クラウンで荷重点直下の支台境界部に,ポーセレンクラウンでは,荷重点直下の支台境界部と頬側歯頸側辺縁表層に,そしてアルミナスポーセレンジャケットクラウンでは,荷重点直下の支台境界部と頬舌側歯頸側表層に引張応力がみられた。モデル内おける最大引張応力は,天然歯支台のアルミナスポーセレンジャケットクラウンでみられ,荷重点直下の支台境界部で0.6〜0.9kg/mm2であった。
現在,前歯小臼歯審美補綴にメタルセラミックスクラウンが強度に優れ,応用範囲も広いことから頻繁に臨床応用されているが,メタルフレームが存在することによる色調再現性や歯周組織に対する為害性,形成量の増加等の問題が指摘され,あらためてフルセラミックスクラウンが見直されてきている。しかし,フルセラミックスクラウンは,審美性や生体親和性に優れているが,材質自体脆いといった欠点を持つためその強度を考慮しながら臨床応用されている。つまり脆さを補うためには適応症を守ること,破折に直結する応力が生じないような支台形成を行うことなどが肝要であり,具体的にTylman21)は,咬合力の方向に対して形成面が直角であること,支台は十分な高径を有すること,十分な残存歯質のあること,形成された歯は元の歯と相似形であることなどを支台形成の必要条件としてあげている。しかし支台が天然歯の場合と各種支台構成材料による築造体の場合では,咬合力が加わったときのセラミックスクラウン内に生ずる応力の分布状態が異なることが予想され,この必要条件がすべての支台構成材料のときにもあてはまるものか疑わしい。また,セラミックスクラウンにおいてもヤング率が異なった場合,支台構成材料の影響をどのように受けるか興味がもたれる。そこで,本応力解析はTylmanの形成法にそった支台形態に対して,支台の材質を変えたときの各種セラミックスクラウン内の引張応力分布を調べ,支台の材質がセラミックスクラウンの破折にどのように影響するかを解明することを目的とした。
今日まで報告されてきたいろいろな条件の支台に装着されたセラミックスクラウンの応力解析の多くは,実物を模倣した模型上で行ったストレンゲージ法,光弾性実験法によるものであり,これら模型上で設定する条件は口腔諸組織を他の材料におきかえたものによるため,口腔内における再現性や,技術的・材料的な問題があった。つまりストレンゲージ法の場合,ゲージの大きさに制約がありクラウンの表面のひずみを測定するのには有効であるが,内部における応力の状態を把握することは難しく,また代表点の解析にすぎず全体的な解析を行うには十分ではない。一方,光弾性実験法は,周辺応力だけでなく内部の応力分布状態も知ることができるが,応力凍結法による三次元光弾性実験では応力凍結時に模型のヤング率とポアッソン比の変化が生じるため,応力分布の様相を知るのには有効であるが,得られた数値は実際の現象と相似するとはいいがたく定量的な解析は難しいという問題がある。
これに対して今回の応力解析に用いた有限要素法(Finite Element Method)は,コンピュータによる数値解析法であり,その解析過程は,連続体である構造物を不連続な要素の
集合体と考え,個々の要素が有限の点で結合しているものと仮定し,各節点に作用する力とそれによる変形の間の関係をつりあい方程式をたてて計算し,全体の構造解析を行うもので,連続的な測定結果を得ることができ,また,モデルの設定に自由度があり,その形状や材料特性を容易に実際の物に近似させることができ,要素を細分割することにより解析精度も向上することから,必要により注目したい部分の応力状態を精度よく,詳細に知ることもできるという特徴を持っている。
実際の口腔内組織は完全な連続体ではなく,構造物が異なる弾性特性をもち,かつ異方性,不均一性をもつ複合材料であり,この中に補綴物の要素も加わるとその構造はさらに複雑となり,模型上の実験では口腔内の状態を再現することは難しく,モデル作製上の技術的,材料的問題などを考慮し検討を加えなければならないことになる。この有限要素法は構造材料が等方性,等質性をもった最良の状態をモデル化したものであることを念頭におけば,このような複雑な構造物の応力解析には非常に有効であり,概略的には他の方法に比べればより定量的な応力解析が可能な方法であるといえる。
1)二次元平面ひずみ問題
本解析にあたって,解析モデルはエナメル質,象牙質,支台材料,セラミックスクラウン材料などの複雑な組合せからなっており本来ならば三次元問題としてとらえるのがより実際的と思われるが,生体材料であるため材料特性の仮定条件と実際条件との間に不確定要因が多くなり,複雑になりすぎて本筋を見失わないようできるだけ簡素化し,かつ実際問題に近い条件を作る意味で二次元平面ひずみ問題としてとりあつかうことにした。
2)引張応力
応力は垂直応力と剪断応力にわけられるが,本応力解析では垂直応力の引張応力のみに着目した。これは,一般にガラスが弾性限界内で破壊する典型的な脆性材料であり,その破壊は引張応力に支配されていることが明らかにされているためである。つまり,破壊は主としてガラス表面にある目に見えないほどの微細なひび(Griffith’s flaw)から起こるとされ,引張応力の下では応力集中が材料の強度以上になると破壊が起き,一度破壊が始まると割れの進行につれて亀裂先端の応力がいっそう大きくなり伝播しやすくなる。これに反して圧縮応力の下では,割れのような欠陥はひとりで伝播しないで,荷重は割れを横切って伝わり,割れの根元の応力を強めない22)といわれている。
3)疲労
ガラスの強度は荷重時間に影響され,荷重時間が長いほど,また荷重速度が遅いほど低下する。これは,いわゆる疲労現象といわれ,主として雰囲気中の水の存在が原因となり,Griffith’s flawが徐々に拡大していくために起きるといわれる23)。口腔内では常に唾液が存在するうえに咬合関係も複雑であり,食物の性状による咀嚼サイクルや咀嚼力の変化などで,クラウンの表面に摩耗や損傷を受けるなど,経時的にセラミックスの破壊が起こりうる要因が多分にみられる。本研究ではこれらの口腔内の環境要因を簡素化し,初期状態における応力解析を行った。
4)支台形態
破折に対する支台形態の因子として,マージン形態,支台高径,支台歯幅径などがあげられる。この研究ではセラミックスクラウン材料と支台構成材料の両者の関係を究明するため,3種のセラミックスクラウンの支台形態は標準的なアルミナスポーセレンジャケットク
ラウンの支台形態に準じた。つまり形成前の歯と相似形にし,ショルダー幅を0.8mmとした。金合金,コンポジットレジン支台においては,マージン部に高さ2mm,幅1mm歯質を残し,クラウンのマージンがこれを被覆するように設定した。
5)接着条件
破折の原因としてセメントの影響も無視することができない。従来,セラミックスクラウンと支台はセメントとの摩擦抵抗により合着されているだけで,完全に一体化しているわけではなかった。それゆえ応力がかかるとセラミックスクラウン,セメント,支台の間にすべり変形が生じ,その結果引張応力を生み破折が起こりやすかった。しかし,接着性レジンの出現により,セラミックスクラウンと支台が一体化することで,セラミックスクラウンの強度が向上することが臨床上示唆されている。理想的な接着は被着体相互の間隙が限りなく0に近づき,被着体が接着剤の強度の影響をうけないようになることである。そこで本解析では接着層を0として,支台とクラウンが完全に接着されている場合を仮定した。
6)セラミックスクラウンの構造
3種のセラミックスクラウンはそれぞれ長石質ポーセレン,アルミナスポーセレン,O.C.C.の単一材からなるものとした。アルミナスポーセレンジャケットクラウンはコアポーセレンと長石質ポーセレンからなるが,その強度はコアポーセレンであるアルミナスポーセレンに影響されるといわれる24)。それゆえ,モデルの単純化をはかるためアルミナスポーセレン単一材からなっているものとした。また,O.C.C.はLi2O,MgO,ZnO,TiO2,Na2SiF6,Al2O3,SiO2,ZrO2を基本組成としたガラスで鋳造成形後結晶化を行うことにより,マイカ結晶および曲げ強さを増強させるβ-スポジウメン結晶が析出するキャスタブル・セラミックス歯冠修復材料であり,900℃で結晶化を行ったものを用いた25)。
7)荷重量
応力は,弾性限界内で荷重の大きさに比例することから荷重量を1kgとした。
1)引張応力の発生部位と大きさ
頬側垂直荷重のとき引張応力発生部位は,クラウンの種類にかかわらず支台築造の有無に影響を受けている。すなわち,3種の支台とも荷重側の荷重点直上の表層に引張応力がみられるが,天然歯支台のみ荷重側と反対の舌側歯頸側表層1/3〜1/2にもみられる。これは象牙質とコンポジットレジンのヤング率にさほど差がないことから,歯髄腔の影響と思われる。しかし,歯髄腔が支台築造体で充実していれば,金合金がコンポジットレジンの約6倍のヤング率を示すにもかかわらず,支台構成材のヤング率による影響は受けないといえる。また,すべての支台で荷重点直上の表層に引張応力のみられたのは支台上縁とクラウン切端の間で支台に支持されていない部分に生じた“てこ作用”によるものと思われる。また,引張応力の大きさは最大値でも金合金支台のとき,各セラミックスクラウンで0.6〜0.9kg/mm2の範囲にあり,他の支台の0.3〜0.6kg/mm2と比較しても,支台構成材料の影響はあまりうけていない。
ここで天然歯の歯随腔の影響を考察する際注意しなければならないことがある。それは,二次元解析の場合,三次元解析のように近遠心部を含む全周にわたる象牙質が存在しないことである。そこで実際の歯よりモデル上の天然歯支台の変位は大きくなると予測される。
頬側45°荷重のとき,引張応力発生部位は,クラウンの種類にかかわらず支台築造の有無に大きな影響をうけている。
支台築造がなされていると,荷重側のみに引張応力が発生し,特に頬側歯頸部と荷重点周辺にみられる。これは歯随腔が築造体で満たされることにより,支台の歪が小さくなるためと考えられる。しかし頬側歯頸部では,引張応力はヤング率の高い金合金支台の方がコンポジットレジン支台より広範囲に生じ,荷重点周辺では,ヤング率の低いコンポジットレジン支台のとき,支台とクラウンの境界部に生じる傾向にある。
天然歯支台のときは3種のクラウンとも,引張応力は頬側内面全体と舌側歯頸側表層全体にみられた。これも歯髄腔の影響をうけた歪によるものであろう。このように内面に引張応力が生ずることから製作時には内面にキズをつけないようその処理は慎重に行い,また接着操作も確実に行わなければならないと考えられる。
また引張応力の大きさも支台築造の有無の影響をうけている。支台築造がなされている場合は,支台構成材料の影響をうけず3種のクラウンとも引張応力は0.6〜0.9kg/mm2以下であるが,天然歯支台では最大値が,O.C.C.クラウン(0.6〜0.9kg/mm2)<ポーセレンジャケットクラウン(0.9〜1.2kg/mm2)<アルミナスポーセレンジャケットクラウン(1.5〜1.8kg/mm2)の順に,すなわちヤング率が大きいセラミックスほど引張応力は大きくなっていく傾向にあった。エナメル質のヤング率とほぼ同じO.C.C.で全体にほぼ均一の引張応力が生じている。このことから,セラミックスクラウンのヤング率はエナメル質と近似することが好ましいと考えられる。
この頬側45°荷重のとき,天然歯支台では引張応力は全体に分布するが,ヤング率の大きいクラウンほど引張応力の大きさは荷重反対側表層で非常に大きくなる。また,支台築造がなされていると荷重側のみに分布し,その値は小さくなる傾向にある。以上のことから,Tylmanの必要条件を満たす支台形態であってもセラミックスクラウン材料や支台構成材料の種類により引張応力の発生部位や大きさが異なることがわかる。
頬側水平荷重のときの引張応力発生部位は,クラウンの種類にかかわらず,支台築造の有無に影響をうけている。
支台築造がなされていると,支台構成材料の種類にかかわらず,荷重点より下方の荷重側全体に,天然歯では荷重点付近とその下方の頬側内面,そして舌側表層に引張力がみられた。
荷重点より切端寄りでは,引張力応力は発生せず3種のセラミックスクラウンとも支台構成材料のヤング率の影響はないといえる。
また引張応力の大きさは,支台築造がなされていれば,その支台構成材料および,セラミックスクラウン材料のヤング率による影響はみられない。一方,天然歯支台のときはセラミックスクラウンのヤング率に比例して大きくなる傾向にあり,それぞれの最大値はアルミナスポーセレンジャケットクラウンで1.8〜2.1kg/mm2,ポーセレンジャケットクラウンで1.2〜1.5kg/mm2,O.C.C.クラウンで0.9〜1.2kg/mm2であった。そしてこの値は,全モデル上でのそれぞれの最大値であった。これは,支台をたおす方向に働く水平荷重が支台の歪を一番生じやすいためと考えられる。
O.C.C.は,エナメル質とほぼ同じヤング率であるが,この結果からもセラミックスクラウン材料は,エナメル質と同等のヤング率を有することにより,引張応力の大きさを抑制できるといえよう。
舌側垂直荷重のとき,引張応力の発生部位は支台築造の有無に影響をうける。支台築造がなされていると荷重側のみ,天然歯支台では頬側にも引張応力がみられる傾向にある。引張
応力の大きさは天然歯支台のアルミナスポーセレンジャケトクラウンのとき,最大値0.6〜0.9kg/mm2をとるが,全体に小さい傾向にあった。
以上のことから,4種の荷重条件において引張応力の発生部位はクラウンの種類にかかわらず支台築造の有無に影響を受けているといえる。すなわち,支台築造がなされていれば,支台構成材料のヤング率に影響を受けず,引張応力は荷重側のみに生じ,天然歯支台では,荷重方向のちがいで分布状態に異なるが,歯髄腔の影響で歪が大きいため荷重側,反対側ともに生じる。また,荷重点より切端寄りでは引張応力が生じにくく,3種のセラミックスクラウンとも支台構成材料のヤング率の影響はないものといえる。そして切端部における破折は,材料自体の剛性と支台上縁とクラウン切端間の距離に支配されると考えられる。
引張応力の大きさに関しては,頬側および舌側垂直荷重のときは3種のセラミックスクラウンとも支台構成材料の影響を受けていないといえる。頬側45°荷重および頬側水平荷重のときは,支台築造がなされている場合は3種のセラミックスクラウンともその支台構成材料の影響はほとんどみられず,天然歯支台では,ヤング率の高いセラミックスクラウンほど引張応力は大きくなる傾向にあった。
2)引張応力と曲げ強さの関係
歯科用陶材の強さは曲げ強さであらわれている。そして曲げ試験の際,試料の破壊が最初,引張応力下の下面から起こることは良く知られている。つまり試料の曲げ強さと引張強さとは線形破壊の場合には比例するのである。そこで,この解析により明らかとなった引張応力と各セラミックスの曲げ強さの比較を行い,破壊の危険性を考察した。
この研究では,クラウンの1点に荷重1kgを負荷し,このときクラウンに生じた引張応力を解析したが,これを静的咬合力に単純に換算し,比較することは難しい。なぜなら,咬合力計により得られた値は,歯根膜全体でその歯が負担した力であり,歯の1点に集中負荷された力ではない。つまり下顎小臼歯の場合,その咬合力を40kgとすれば,1点に負荷されたとして決して40kg以上になることはない。そこでクラウンにとって最悪の条件として1点に40kgが負荷されたときを想定し,そのときの引張応力値と各セラミックスの曲げ強さを比較検討することにした。
頬側垂直荷重,舌側垂直荷重のとき生じた最大引張応力0.6〜0.9kg/mm2を荷重量40kgのときに換算すると24〜36kg/mm2となる。この大きさは,3種のセラミッス材料の曲げ強さ,アルミナスポーセレン8.0〜12.6kg/mm2
26),ポーセレン7.2〜8.3kg/mm2 27),O.C.C.22.0〜30.0kg/mm2に対比するポーセレン,アルミナスポーセレン,O.C.C.の順に破折の危険性は小さくなると考えられる。
頬側45°荷重,頬側水平荷重における最大引張応力はともに天然歯支台にみられ,頬側45°荷重のとき生じた最大引張応力を荷重量40kgに換算すると,アルミナスポーセレン60〜72kg/mm2,ポーセレン36〜48kg/mm2,O.C.C.24〜36kg/mm2になる。これをそれぞれの曲げ強さと比較すると,引張応力と曲げ強さの比はアルミナスポーセレンで4.8〜9.0,ポーセレンで4.4〜6.7,およびO.C.C.で0.8〜1.6になる。アルミナスポーセレンはポーセレンに比べ曲げ強さは強いが,引張応力も大きい傾向にあり,引張応力と曲げ強さの比は同じ傾向にあった。また,O.C.C.は発生する引張応力が小さいうえに曲げ強さが大きいことから他の2者に比べ破壊しにくい材料であることがわかった。
頬側水平荷重のとき生じた最大引張応力を荷重量40kgに換算すると,アルミナスポーセレンで72〜82kg/mm2,ポーセレン48〜60kg/mm2,O.C.C.36〜48kg/mm2になる。これをそ
れぞれの曲げ強さと比較すると,引張応力と曲げ強さの比はアルミナスポーセレンで5.7〜10.2,ポーセレンで5.8〜8.3,O.C.C.で1.2〜2.2になる。また頬側45°荷重と同様,アルミナスポーセレンとポーセレンでは引張応力と曲げ強さの比は同じ傾向にあった。そして,O.C.C.はこのときも他の2者に比べ破壊しにくいことがわかった。
弾性率の異なる各種セラミックスクラウンが支台に装着されたとき,支台構成材料の種類により,その物理的強度が左右されると考えられる。そこで,下顎第1小臼歯を支台歯としたセラミックスクラウン修復を想定して,セラミックスクラウン材料として長石質ポーセレン,アルミナスポーセレンおよびO.C.C.の3種と,支台構成材料として天然歯,金合金およびコンポジットレジンの3種を選びそれぞれを組合せ,計9種類のモデルを設定した。そして各モデルに頬側垂直荷重,頬側45°荷重,頬側水平荷重,舌側垂直荷重の4方向の荷重を負荷しクラウン内部に生ずる引張応力の分布状態を二次元有限要素法を用いて解析し,つぎの結論を得た。
1.天然歯支台では,歯随腔の影響により荷重側,反対側ともに引張応力が発生する。
2.支台築造がなされていれば支台構成材料の種類にかかわらず引張応力は荷重側のみに生ずる。
3.荷重点より咬頭頂寄りでは引張応力は生じにくく,3種のセラミックスクラウンとも支台構成材料の影響を受けにくい。
4.天然歯支台の頬側45°荷重と頬側水平荷重のとき,引張応力はセラミックスクラウンのヤング率の大きさに比例し大きくなる。
5.すべての荷重条件における築造支台,および天然歯支台の頬側,舌側垂直荷重では,引張応力の大きさは3種のセラミックスクラウンとも支台構成材料による影響は少ない。
槁を終えるにあたり,本研究に際し終始ご懇切なるご指導とご校閲の労を賜った日本歯科大学新潟歯学部数学桜岡 充教授,ならびに解析にご協力下さったオリンパス光学M袴塚康治,渡辺一博,井本敏彦氏に深甚なる感謝の意を表します。
なお本論文の要旨は第77回日本補綴歯科学会学術大会において発表した。
1)Conod, H.:Etude sur la Statique de la Couronne Jaquette, Rev.
Mensuette Suisse d’Ontol, 47:485〜529,1937.
2)Walton, C.B.
and Milton, M.L.:A preliminary report of
photoelastic tests of strain patterns within jacket crowns, J Amer dent Ass, 50:44〜48,1955.
3)Pettrow, J.N.:Practical factors in building and firing characteristics of dental
porcelain, J Prosth Dent, 11:334〜344,1961.
4)Lehman, M.L.
and Hampson, E.L.:A study of strain patterns in
jacket crowns on anterior teeth resulting from different tooth
preparations, Brit Dent J, 113:337〜345,1962.
5)大竹博明:陶材ジャケット・クラウンの支台形態による力学的研究,歯学,57:687〜709,1970.
6)近藤英宣:ポーセレン・ジャケット・クラウンの三次元光弾性実験による力学的研究,歯学,58:669〜709,1970.
7)榎本 滋:小臼歯におけるポーセレン・ジャケット・クラウンの三次元光弾性実験によ
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8)石井 恒:ジャケット・クラウンの変形および破折の機構に関する実験的研究,歯科学報,68:1571〜1604,1968.
9)坂口邦彦:ポーセレンクラウンの衝撃的および静的荷重時のひずみについて,歯科医学,38:136〜164,1975.
10)小森富夫,北上徹也,末瀬一彦,高橋典章,谷口 勉,甘利光治,杉中功一:ポーセレン・ジャケット・クラウンの応力解析 その1 荷重部位・方向の変化にともなうクラウンおよび支台歯の挙動,歯科医学,40:555〜566,1971.
11)大谷昌弘:ポストコアー支台におけるジャケットクラウンの応力分布について,歯科医学,41:73〜116,1978.
12)冲本公絵:上顎前歯部ポーセレンジャケットクラウンの咬合応力分布,九州歯会誌,36:504〜530,1982.
13)冲本公絵,宮武幸輔,日永田裕子,平安亮造,高雄善裕:傾斜歯の力学的検討,補綴誌,30:1303〜1314,1986.
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